飃の啼く…第20章-11
「よせ。」
飃の言うまま、何と無く置き場に迷う手を床に落とした。明かりを落としても尚、サーチライトのようによく光る飃の目が、私の身体を見つめている。私は顔をそむけて、なぜかドキドキとうるさい心臓の音だけ聞いていた。帯が解かれて、私は浴衣に袖だけ通したような状態になっていた。
飃は、何も言わずに私の足を持ち上げて、キスをした。
「飃…?…!」
足の指の間に舌を差し込んで嘗めあげられる。慣れない快感に身をよじってしまう。彼は、つま先からだんだんと上へ、沢山のキスを落とした。慈しむように、賛美するように。その口付けが私の足の付け根に来たとき、私は短く息を吸った。
「っあ……ァ…!」
声もろくに出せず、かすれた息が意図していないのに勝手に出る。目が熱くなって、何を見ているのかもわからなくなってきた。飃の指が、もうとっくに知り尽くしている私の弱いところに届く。
「ふ…ぁ、あ…っ…!」
大きな声を出しては、隣の部屋にも聞こえてしまうとわかっていても、押さえきれずに声が漏れた。
「つむじ…飃…?」
「欲しいか?」
想いをダイレクトに口に出されて、恥ずかしいながらもうなずく。下唇をかんでいる私の口を、舌でなぞって開かせる。飃はそうして、私の口をふさいだまま私の中に入ってきた。
「ん、あ…ぁ…。」
慣れてもいいはずなのに、味わったことが無いほどの感覚に思考が停止する。体中に電気が走って、もう何も考えられなくなる。
奥まで届くと、飃は抑え目な息を付く。
動くたびに、前のより大きな波が襲ってくる。飃の手が、私の身体を嘗めるように愛撫する。私も、両手を彼の肩に回して撫でる。飃の指が、私の傷跡をたどっていた。一度切れた神経が繋ぎなおされている過程にある傷跡は、そんな刺激をひどく敏感に感知して私を追い詰める。
「は、ぁ…あっ…つむ、じ…!」
声に出さなくても伝わっているに違いない、私の体の悲鳴。飃はさらに深く貫いた。
「さくら…!」
「あぁ…っ…――!」
私は、一瞬からだの全てが収縮するような感覚に囚われて、飃の身体を引き寄せた。二人の身体が大きく脈打って、それからまたゆっくりと、時間が動き出すまで、私たちは抱きあっていた。
9時をとっくに回った時計を見て、二人とも腑抜けた笑い声を上げた。
「まったく!何やってたんだよ…あ、決まってるか…っ痛ぇ!」
狗族の祭りは、神社の裏山にある広場で“9時から”行われていた。私たちがついたころには、形式的な祭りの始まりの儀式はとっくに終わっていた。赤々と燃える火を囲んで、今行っているのは歌詠みの儀だ。
その名の通り、自分たちの作った歌、或いは、人間の詠んだ歌で気に入ったものを披露していく。遅れて到着した私たちを声高に非難したカジマヤが、ニヤニヤ笑いながら歌った。