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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第19章-12

「八条さくら…どうかあの娘に背を向けないでやって欲しい。」

私は、手術室の厚い、厚い金属の扉の向こうに目を向けてこう答えた。

「茜は…」

いや、答えたんじゃない。自問したんだ。

「まだ、私を友達と呼んでくれるかな…。」



ICUに面する大きなガラスの窓は、ナースステーションと隣り合っている。患者に異常が無いかいつでも見ていられるようにするためだ。看護師たちは、この奇妙な一段を遠巻きに見つめながら、それでもなんらかの異常さを感じ取っていただろうと思う。私たちに声をかけるものは、無かった。



「さくら…。」

聞きなれた声に、振り返る。カジマヤが、泣きそうな顔でこちらにやってきた。

「治ったんだなぁ!良かったぁ!」

そう言って抱きつく彼を、今日ばかりは飃も見逃してくれた。

「心配かけて、ごめんね。」

そして、続いて神立、颪さん、イナサさんと、見慣れた顔が集まってくる。ICUの前にはちょうど談話スペースがあったから、より奇妙さを増した一団はそこでため息をつくやら、笑い交わすやら泣き出すやらで、看護師達の視線もいっそう怪訝なものになった。

「じゃあ、九重は…。」

イナサさんが、言いにくそうに口にした。

「でもさ、新しく武器が手に入ったんだろ?」

いつも楽観的なカジマヤが、沈みかける雰囲気を少し押し上げる。

「だが、盾がそろって始めて伝承だからなぁ…。」

颪さんが言う。

「でも、九重が…それともあれは北斗だったのかな…。」

私がようやく口を開いた。何と無く確信が持てないものが、刻一刻と形になってきているのがわかった。

「言ったんです。いや、見せてくれたといったらいいのか…」





私は、意志を持ったかのような暗闇に縛り付けられていた。指一本すら動かすことはできず、四肢自体が失われてしまったような感覚に溺れていた。たえず耳から脳へと、突き刺さるようなあなじの囁きが聞こえていて、私自身が持つ声はその騒音に奪われてしまっていた。



―殺呪憎忌穢裂虐怒悔喰暗惨血喪・・・・



それは言葉ですらない。音が表す意味と、それに伴う暗いイメージが、私から抗う気力を奪って、考えることを禁じた。そこが海の底なのか、奈落へ向かう途中なのか、はたまた星も見えない宇宙空間のどこかなのかすらわからなかった。上下左右の区別もつかず、重力すら感じない。


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