【DOLL:zero-2】-2
ドクンッ…
その心音をきっかけに世界は無音と化した。
男と妻を交互に見やり、一瞬にして全てを理解した私は…
ゆっくりと…男に近付く。
男は気付かない。
意図してか…せずか…私は足元に転がる酒の空瓶を拾う。
ゆっくりと…
ゆっくりと…
その瓶を男の頭に降り下ろした。
それも無音だった。
血が飛び散り、汚れた地面の上にゆっくりと…男は倒れた。
それも無音だった。
同時に妻も倒れた。
妻を支える事すら気付かず、ただただ呆然と…スローモーションに流れる光景を見ていた。
下から私を見つめる妻の眼球は濁って白く、妻の意識がもう虚無であることを伝えていた。
振り乱されてボサボサになった髪…半開きの口からは涎を垂らし…死後硬直が始まり腐敗し出した蒼白い肌には幾筋もの血が伝う……。
月明かりに照らされたお腹の膨らみに気付き、やっとふらふらと妻の元に寄り触れる。
…冷たい。
ああ…。
我が子よ…。
まだ生を知らぬ我が子。
この世を知らぬ我が子。
こんな醜い世なら生まれてこなくて良かったのか…。こんな汚い街なら知らなくて良かったのか…。
これで良かったのか…。
……いや。
私は持っていたガラス瓶の欠片を妻の腹部に躊躇なく当てた。