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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの絆<後編>-8

そうは思っても、やっぱり宮木さんと一緒の時間は相変わらず楽しくて…俺にとっては特別だ。
どんな些細な事でも、宮木さんが一緒なだけで愛しく思える。
でも、きっと…宮木さんにとってはそうでは無いのだろう。
言葉や仕草の端々に、光輝を気にしている様子が窺える。

今日なんかは特に、光輝の影が絶え間無くチラつく。
というのも、さっきからずっと、宮木さんは脅えた様に廊下へと視線を向けているからだ。
可哀想になるくらい顔面蒼白で、人が通る度にビクッと反応している。
昼間の光輝の様子から察するに、二人の間に何かが有ったのは確かで…その原因を作ったのは、間違い無く俺だ。

「廊下…そんなに気になる?」
俺は宮木さんの顔を見ずに言った。と言うか、顔を見たら絶対に訊けなかった。
「ぇ?」
「さっきからずっと…恐る恐る見てるよね?」
「そ、そんなことは…」
宮木さんの声が震えている。
視線を少し動かすと、カタカタと…ペンを持つ手が震えているのが見て取れた。

「宮木さん…手が震えてるよ?」
指摘すると、宮木さんは震えを隠す様にギュッと両手を握った。
そして無理に笑顔を作って、イッキに言葉を巻くし立てる。
「あはっ、バ、バレちゃった!?松田君って、鋭いね〜!さっすがSクラス!我が校のエリートは違うねっ!……って、私が分かりやすいだけなのかな?おまけに、単純で鈍感!よく光輝君にも、ガキだガキだ〜って言われるし!ホント、私って子供だよね?嫌になっちゃう……」
最後の方は声が震えすぎていて、まるで泣いているかの様だった。それなのに…まだ顔には、作り笑いを浮かべたままでいる。
無理に強がって見せるその一挙一動から宮木さんの痛みが伝わって来て、俺は酷く苦しくなった。

「無理…しなくて良いよ……」
「え?」
「全部分かってるから…無理…しないで?」
「な、なんのこと?」
宮木さんの笑顔が氷つく。
俺の前では、そんな無理して欲しくない。させたくない。
でも…この表情は、明らかに俺がそうさせているのだろう。

「光輝のことだよ。光輝なんか…好きでいるの、やめちゃえば良い」
「え、えっとぉ…そ、そうだよね?でも……」
「俺は光輝が嫌いだ。宮木さんにこんな顔させて…いつまでも余裕ぶってる光輝が、はっきり言ってものすごく憎いよ」
(違う…よな、光輝のせいなんかじゃない……)
光輝が悪いんじゃないって、俺は本当は分かっている。
宮木さんにツラい表情をさせているのは、他ならぬ俺自身。

「宮木さんに光輝は合わない。あんなヤツ好きでいたって、いつまでも報われないよ?」
「で、でも…」
「どうして光輝なの?どうして他の男を見ようとしないの?宮木さんはいつだって、光輝のことばっかりだ」
(馬鹿だな、俺…)
「どうしてって…」
「どうして俺は、宮木さんの瞳に映らないの?光輝よりも他の誰よりも…俺がずっと…宮木さんのそばに居たのに……」
(こんなのきっと…訊くだけ無駄なのに……)

俺が好きになった宮木さんは、桜の向こうに光輝を見ていた。愛しそうに…慈しむ様に……
物理的にそばに居ても、光輝に敵う訳がない。
俺よりももっと近く…光輝はずっと、宮木さんの心の中に居た。
それを知りつつも、俺はまだ諦め切れずに、宮木さんにまで当たっている。


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