飃の啼く…第18章-8
「―馬鹿な子。」
こんな風に話すようになったのはいつからだったか。そう昔のことではないように思う。最近になって、茜の考え方はひどく厭世的になり、一人でいるか、傍にさくらがいない時には絶えずその口元に冷笑が浮かんだ。
「あたしが何のために悩みを聞いてやってるか知らないで。ただ、どれだけ弱ってるか知るためだけに友達になってやってたのに、懐かれちゃうなんてお笑いだわ。」
ペンダントを握る手が、少し震えた。
「この間なんか、気を利かして今度は自分が相談に乗ったりして…嫌気が差すくらいお人よしなんだから……ほんと…馬鹿な子。」
そして、こわごわと指を開いた。そこにあるものが、彼女の目を焼くとでも言うように。
そこにあったのは、小さな赤い宝石がはめ込まれた金属の板。そして、そこに刻まれた短い言葉。
「Forever Friends」
「こんなもの、世の中にいくらだってある。」
そして、その手から目を離さずに、呟いた。
「ほんっと、くだらない。」
「では…。」
風炎が静かな声で聞いた。
「何故、泣いているんだ?」
え?と、自らの頬に手をやって狼狽する姿を見て、風炎は興味深そうに言った。
「興味深いな、人間というものは。」
「人間がみんなこんな風ってわけじゃないわ。」
切り返すような声色で、茜が言った。
「そんな分類に意味は無いの…あたしはあたしなんだから。」
そして、再び手の中に目を落とした。
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―小竹の葉は み山もさやに 乱るとも
われは妹思ふ 別れ来ぬれば―
隈笹の生い茂る原は、人間が足を踏み入れなくなって久しかった。目の前には、闇のなかでぼんやり光っている様にも見える白い建物。看板を剥したあとの壁には、そこだけ他より白く西山総合病院の文字が浮かび上がっていた。
病院とは…飃は思った。
「誂(あつら)え向きではないか。」
病める者が支配する城…奴が一人悦にいって微笑む顔が浮かぶようだ。胸の悪くなる笑みではあるが。
近付くにつれ、その建物全てに強力な結界が張り巡らされているのがわかった。そしてその結界が、彼の古い友人の最後の仕事であることも。
「流石は巌…隙のない結界だ。」
自嘲的に呟く。この牢獄から、帰ることを考えないほうがいいのだろうと、彼は思った。さくらのことは確かに気にかかる。木にかかるという言葉はふさわしくない…本当は、後ろ髪引かれ、心引き裂かれる思いだった。しかし、彼女には信頼できる者達が付いている…彼は心配してはいなかった。心配なのは、彼女が自分を追いかけて気はしないかということだけだ。
子竹(ささ)の葉が、追い風にざわめいて彼を急かした。彼はその風に、さくらへの想いを暫(しば)し預けて、心の中から彼女の記憶への扉を閉ざした。
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