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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第18章-9

神立が訪ねて来た時、イナサさんは留守にしていた。彼は身体に巻いた包帯を幾筋か解けたままに、真っ直ぐ私のベッドまで来た。私は、頭の中で「いらっしゃい」と言った。いや、もしかしたら実際に口にしたかも知れないけれど。
「さくらさん」
彼は言った。
「前に貴女に言おうとした事、話しに来ました。」
私は、微かにうなずいた。心では、鈍色の空が、今にも泣き出しそうなのをしきりに気にしていた。
「澱みは…貴女の中にいる闇が欲しいんです。正確には、その闇に乗っとられた貴女が。」
この会話が、私のなかの何かをチクリと刺激した。
「そして、黷はその貴女の身体に、自らの子を宿そうとしてます。」
チクリと刺された所から、ひたすら奥へ追いやろうとしていた感情が、煙の様に湧き上がる。私は耳を塞いで、私の世界に再び逃げ込もうとした。聞きたくない。もう戦いたくない…恐いのも、憎むのも嫌……
「飃さんが…獄の所へ行きました。」

「何?」
数日ぶりに発した言葉は、掠れていた。
「来なければ茜を殺すと、脅されて。」
私は、再び話し方を忘れた見たいに…いや、言葉そのものを忘れたかの様に無言で神立を見つめた。それでも口は、何かを紡ごうと力なく開いていた。
「行きますか?」
神立は、挑む様な目で私を見た。
答える私の声は、掠れても、震えてもいなかった。
「案内して。」



降り出した雨は幼く、針のように細かった。私は、九重と自分の体以外何も持たずに、ひたすら神立の後を追いかけた。最近食事もろくにとっていなかったせいで、体が重い。そして心の中には、またさっきよりこっちに近づいてきた闇の声がしていた。

―殺させておくれよ、さくら、殺させておくれ

私は、自分でも思っても見なかったことに、それと会話した。

―わからない。

わからない。確かに、あの男は殺したい。でも、あなじに奪われた心と身体でそれをやり遂げることを望んでいないのは確かだった。私が一度あなじに心を奪われてから、九重の声は完全に聞こえなくなった。確かに繋がっている手ごたえはするし、私の思うとおりに、九重を舞わせることが出来る自信もある。でも、こんなに強く飃を想っているこの瞬間、一番聞きたいと思っている“九重”という名の私の良心は、ひたすら黙り込んでいた。

何かを覚悟するかのように。

何かを…待っているかのように。


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