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猫又たまの思い出
【コメディ 恋愛小説】

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猫又たまの思い出-2

「なんか凄い音がしたけど……君、大丈夫かい?」
何故か私を心配そうに見ていますけど騙されません!
「へ、へへへ変な心配しないでください! 人間のしかも男になんて心配してもらう筋合いは……な、ないんですぅ! わ、私は知ってるんですからねっ。人間の男なんて優しい振りして女を騙して、最後にはやるだけやったら鬼畜の様に扱って慰み者にするケダモノだってことっ! えーいっ、近寄るなですぅ!!」
落ちた衝撃で動けない私は尻尾の毛を逆立てながら精一杯威嚇をしたつもりでしたが、どうやら彼には通用しなかったみたいで私の様子を見てクスクスと笑っているじゃないですかっ!?
これは屈辱です!
猫又の私に対する屈辱です。精神的凌辱です!
これだから人間は油断できないのです。
「わ、笑うとは何事ですっ! 猫又の私を笑うとはなんたる無礼っ!! そのニヤケた顔を私の爪で鱠切りにしてやるのです!」
「はいはい……わかったから、ちょっと大人しくしておくれよ」
そう言うと彼は私の頭をクシャクシャと少し乱暴に撫でると、上着のポケットからハンカチを取り出すと私の右手を掴み、落ちた時に出来たであろう傷口にハンカチを当ててきました。
「に、人間になんて……か、感謝なんかしないですからね……」
「別に感謝してもらいたくてした訳じゃないよ。それと、俺は槙村十次郎。人間って呼び方は勘弁してくれないかな」
「ふんっ。お前なんて人間で十分だ」
そう言うと私は逃げる様にその場を逃げました。
あれは私の精一杯の強がりでした。

「あーっ、もうっ!! むかつくむかつくむかつくぅ! ホント、一体なんなのよぉっ」
その日の夜、私は寝泊りしている神社の社の中で一人叫びます。
理由は今日出会った人間ですが、正直なところ私がここまで取り乱されるとは思いませんでした。
普段なら人間に興味を引かれることはなかったのですが、今回はどう無関心を装うとも本能の部分がそれを拒否します。
言ってしまえば、目新しいものに興味津々なのです。
ある意味、悲しい猫の性ってやつかもしれません。
でも、いくら目新しいものに関心がいく猫の性といってもあんな奴に興味をもつなんて不覚すぎますよ。
「でも……優しそうな目をしてたなぁ……」
ポツリとそんな言葉を知らず知らずのうちに呟くと、それを否定する為に頭をぶんぶん振りながら苦悩を繰り返すといった夜を過ごした私なのでした。

そして、次の日も人間こと槙村十次郎は昨日と同じ場所に居座りスケッチをしていました。
その姿はとても静かで、周りの風景と溶け合い、彼がその場にいる事がとても自然で違和感を感じさせないくらいでした。
人間で生き物はもっと独善的で業が深いものと思って生きてきた私にとって、彼のこの姿は信じらないの一言なのです。
『もっと彼を知るのも面白いかも……』
そんな好奇心を擽る言葉が頭を過りました。
今までの退屈な暮らしの中でいきなり現れた未知の存在が私の心を揺さ振るのでした。

それからの私は自分が自分でないみたいです。
ちょっとした時間が空くと彼の事を考えてしまい、気持ちのバランスが上手く取れなくなっていました。
ここ数日、彼を観察してみたところ、どうやらこの神社の近くにある川辺にテントを張り寝泊りしているようです。
町の人間がどんな暮らしをしているのか興味を持った私は、木に身を隠して暫く彼を見ていると、彼は薪に火を着けるとテントから釣り竿を取出し、釣りを始めました。
その様子を見ながら私が毛繕いをしている間に彼は三匹程、岩魚を釣り上げると、その岩魚を手際良く捌き串を刺して焚き火の側で焼き始めていました。
どうやらただの道楽者ではないようです。
うーっ。こうして見ているとお魚が美味しそうに見えてきます。
それにお魚の焼ける匂いが食欲を誘うのですよ。
そんな誘惑と葛藤していた時、不覚にも私のお腹が大きな音を立ててしまいました。
「おーい、そこに居るんだろ。出ておいで」
ふいに呼び掛けられた私は驚いて彼の前に飛び出してしまいました。


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