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猫又たまの思い出
【コメディ 恋愛小説】

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猫又たまの思い出-1

私の名前は『たま』って言います。
今は人間の姿をしていますが、こう見えても立派な猫又なんです。
それから、見た目でよく十代の子と間違われるのですが、私の年齢は三百歳を越えてるんですよ。
下手に長生きなものですから、人間の世界の移り変りや人の心の変化はたくさん見てきました。
良い意味でも、悪い意味でも……。
ですから嫌な嫌な思いも一杯してきました。
だから槙村家での今の生活はとても幸せです。
今、こうして猫又の私が穏やかに暮らせるのはこの家の主である『春人くん』のお陰でもありますが、でも私に人間と共に暮らすことを教えてくれたのは違う人……。
それは春人くんのお祖父さんである今は亡き『槙村十次郎』って人でした。

今から八十年以上になりますが、私は長いこと人間の様々な負の面を見せ付けられ、心身共に疲れ切り人間に嫌悪感を抱いていました。
そんな私は町を離れ、山間部の小さな古びた神社で生活をしていました。
一人の暮らしは寂しいけど、その代わりと言ってはなんですが穏やかな時間と豊かな自然がそこにはありました。
そんなある日、この古びた神社に一人の人間がやってきました。
この神社は地元の人間にすら忘れ去られた場所でしたので、人間が来る事など皆無でしたから私はこの時かなり動揺したものです。
そして、そんな私は社の屋根に身を隠し、その人間を観察し始めました。
服装は軽装でとても山歩きに適した感じではありません。
こんな山の中までこんな服装で入り込んでくる人間は決して地元の者ではないでしょう。
そして、私の目を引いたのは彼が抱えている画材道具でした。
どうやら彼は町から来た絵描きみたいです。

彼の行動に興味を持った私は社の屋根の陰からそのまま彼を観察することに決めました。
一通り辺りを見回した彼は何か納得したみたいで、笑顔を見せると近くにあった岩に腰を掛けると画材道具を傍に置き、スケッチブックを広げ何やら絵を描き始めるのでした。
穏やかな午後の日差しに照らされながら絵を描いている彼の姿は、人間不信の私にはとても不思議な感じがしました。
ここ数十年接してきた人間達とは違い、彼を見ていると気持ちが穏やかになるのです。
今、思えば彼には人間の後ろ暗さがあまり感じられなかったのです。
しかし、私も人間には散々酷い目に遭わされてきた身ですから、彼にそんな印象を感じをても簡単には騙されません。
そんな事を考えながら私はじっと彼を観察するのでした。

それから数時間……。
ひたすら絵を描き続ける彼を見飽きた私はいつの間にか眠ってしまっていたようです。

寝ている間の記憶は当然ながらないのですが、どうやらその時の私の寝相は悪かったらしく、不覚にも屋根から落ちるという体たらくをしてしまいました。
「ふぎゃっ!?」
大きな音と共に落ちた私が痛むお尻を擦っていると何か視線を感じますが、今の私にはそんな事を気にしている場合ではありません。
「いたたたた……なんなのよ、もうっ……」
涙目になりながら、落ちたことに一人で悪態をつく私の下に影が見えました。
恐る恐る顔を上げると、そこには先程の絵描きの彼がいますよぉ。


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