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猫又たまの思い出
【コメディ 恋愛小説】

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猫又たまの思い出-3

「た、たまたま通りかかっただけです。別にお前を観察してた訳じゃないんですから勘違いしないように前以て言っておきます」
「わかったよ。そういう事にしておこう。それよりお腹空いてないかい?」
彼は優しげな笑顔で問い掛けてきます。
「べ、別に……」
「ふーん、良かったらそこで焼いてる魚を一緒に食べないかなって思ってお誘いしてみたんだけど」
「人間からの施しは受けません」
「そお? だったら、森にいる動物にお裾分けってことになるかなぁ」
彼の言葉に思わず耳がピクピクッと動いてしまいました。
どうやら、彼も私の耳の動きを見逃さなかったらしく、楽しそうな笑顔になります。
これだから人間という生き物は……。
「じゃあ、お願いだから食べてくれないかな」
「……しょ、しょうがないです。そこまで言うなら食べてあげます」
ううっ……。食べ物に釣られあっさり懐柔されれてしまう私って……。
そんな事を考えながら、恥ずかしくて赤くなる顔を隠す為、私はそっぽを向きながら焚き火の側に歩いていくのでした。

焚き火の火が揺らめくのを見つめていると、彼は私の名前を聞いてきました。
今までなら名前を教える義理はなかったのですが、今はお魚をご馳走になる手前、無視もできません。
私だって猫なりに義理堅さは持ち合わせています。
「…………たま……」
私が小さな声で自分の名前を言うと、彼は嬉しそうに私の名前を繰り返し呟く。
「そんなたまたま連呼するなぁ! まるで飼い猫みたいじゃないですか!」
「いいじゃないか、可愛いんだし」
「……ええっ!?」
思わぬ一言にドキッとさせられながら、私は彼の顔をちらっと見ると何故かニヤニヤした表情をしていた。
「こっ……このっ、謀ったな! 十次郎!!」
「あっはは。別に謀っちゃいないさ。それにしてもやっと名前を呼んでくれたね」
そう言われた私は、我に返ると恥ずかしさを隠す為、顔を背ける。
「た、たまたまだ。つい口が滑っただけです。だからそんなに喜ぶな……」
「でも、名前を覚えてくれたから俺の名前を呼んでくれたんだろ。そう考えたらやっぱり嬉しいよ」
「別に好きで覚えた訳じゃないです。ここに出入りする人間なんて皆無だから珍しくて覚えただけです」
「へぇ、こんなに良い所なのにね。でも、人間が立ち入らないからこその環境なのかもね……」
「そうだな……。人間は己の欲を満たす為には平気で自然を破壊し、無益な殺生を行う……。この場所もいつまでこの姿でいられるか……」
私の言葉に十次郎は無言になり、申し訳なさそうな顔をする。
「……俺が言ってどうなるものじゃないけど……すまん……」
「何故、お前が謝る。それこそ筋違いだ。確かにお前は私が嫌う人間だ。だが、それは大まかな括りであって、お前は槙村十次郎だろう。それともお前は私が嫌いな人間達と同じなのか?」
「……分からない。ここで胸を張って違うって言うことは簡単なんだろうけど、そう言ってしまうと嘘になりそうだ……」
十次郎は真っすぐに私を見つめると真剣な表情で私に言った。
恐らく、この十次郎という人間はかなりの変り者なのだろう。
私はそう思いながら彼の顔を見つめた。
「十次郎……お前、変り者と言われてるだろ?」
「まあね、こんな貧乏画家をやってればそう呼ばれるよ」
私の言葉に十次郎は苦笑いをしてみせる。
「確かに人間としては変り者だが、私はその……あの……なんだ……き、嫌いではないぞ」
鳩が豆鉄砲を喰ったような顔をする彼に私は慌てて言葉を繋ぐ。


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