ジャンプ!-16
ー夜ー
「ヘェ〜ッ、じゃあその後輩と女の子をくっつけようとしてるんですか?」
「エエ、聞けばお互い嫌いじゃないみたいだし。オレには彼女が居ますから……」
久しぶりに藤芳邸に遊びにきた直海は、奥さんの浩子に〈夏川の件〉で相談を持ちかけていた。
直海が考えたのは、夏川を傷付けないようお別れする事だ。
こんな場合、同姓に聞いて意見を求めるのが一番だ。
しかし、美加には内緒だから聞けない。さりとて林に聞くだけでは意見が偏るおそれがある。
従って、直海は浩子に聞いて参考にしようと思っていた。彼女には日頃から美加との悩みをメールで聞いてもらっていたからだ。
直海の考えに浩子は答えた。
「でも…それって〈要らぬお世話〉じゃないかなあ」
直海にとっては意外だった。
浩子が続ける。
「…だって、貞本さんは断れば良いだけでしょう。その後の事まで案じてやるのは……」
「確かにそうですけどねぇ」
夫の順一も、
「貞本さん。〈ケセラセラ〉ですよ!ホラッ」
そう言うと、直海のコップにビールを注ぎ入れた。
「ねぇ、貞本さん!ハリー描いて」
長女の優香が直海の傍に寄り、飼い犬の絵を描いてくれと言う。
彼女は以前、美術の宿題を直海に手伝ってもらい、彼が絵画に長けている事を知ってるのだ。
直海は夏川の件を頭の隅においやり〈貸してごらん〉と、コピー用紙に鉛筆でラフ・スケッチを描いた。
「やっぱり上手いね!」
優香は描いたスケッチを持って自室へと消えた。直海にとって、普段のモヤモヤを忘れられるこのひとときが大好きだった。
ー夜中ー
けたたましく電話の音が鳴り響く。さっき寝ついた直海は途端に目を覚ましたが、身体が直ぐには反応せずモタモタとベッドを這い出す。
寝ぼけ眼で電話のある居間へと向かうと、母親が受話器を元に戻していた。
直海は面倒臭そうに聞いた。
「誰?」
だが、母親は首を横に振ると、
「何も言わないで切れたの…気味悪い……」
「番号は?」
直海は電話機のディスプレイを指差しながら聞いた。
「見てない……」
母親はため息混じりに息を吐き出した。