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『彼方から……』
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『彼方から……』-19

「開けてみて……」

おばさまはあたしに一言だけそう言った。

指先が震える………だけどあたしは息を止めて小箱を開けた。

「………克樹………」

思わず口から言葉が零れる。それは小箱の中に銀色の指輪が光っていたから。

「……これを…あたしに?……」
「いつだったか克樹が言ってたの。俺は美宇を嫁さんにするんだ……って。すぐには無理だからとりあえず婚約って形にしてさ…って笑ってたわ。いつのまにか用意していたのね。」


もうダメだ……


最後の防波堤は、いともたやすく突破されてしまった。堪え切れない……

あたしには溢れ出す涙を止めるコトなど出来なかった……

「克樹の言葉をそのまま伝えるわね。『美宇、出来れば俺の手でお前に渡したかったけど形見として渡す事になってしまってごめん。お前にとって負担になるならどうかこのまましまってくれ。無理に背負わないで欲しい。』だそうよ。」

手にとってはめてみると、その指輪はあたしの薬指にぴったりとおさまった。

指輪を眺めながら、どうして克樹は指のサイズを知っていたんだろうと考えていたあたしは不意に思い出す。

あれは、三ヵ月ぐらい前だった……

『なぁ、美宇。どうして女性の服とか指輪のサイズって号なんだ?』

突然、克樹に聞かれてあたしは戸惑った。

『さぁ…あたしもよく知らない。ただ、合わせてみてあたしはこの号数なんだなぁって覚えてるだけ。』
『ふーん、ちなみに美宇は何号なんだ?』
『あたし?8号だよ。あ、ひょっとして指輪でも買ってくれるの?』
『バーカ、聞いてみただけさ。ま、そのうち気が向いたらな……』
『なによ!克樹のケチ!!』

他愛のない、いつもの会話。だけど克樹はその時から決めていたのかもしれない。照れ屋の彼らしい聞き方で……

指輪をはめた手を胸元に抱え込むとあたしは克樹の名前を何度も呟く……

「大切にします。克樹がくれた物だから……肌身離さず持ち続けます。だから、頂いてもいいですか?」
「ええ……ええ、そうしてちょうだい。あの子もきっと喜ぶわ……」

おばさまも目をハンカチで押さえながら震える声で答えてくれた。

克樹……これは悲しくて泣いてるんじゃないよ。嬉しくて泣いてるの……

だから、好きなだけ泣いていいでしょ?
怒らないよね?

「美宇ちゃん……私からもお願いがあるの。」
「……はい……」
「私も克樹の果たせなかった望みを叶えてあげたい。だから、一度でいいから、お母さんって呼んで。」

その瞬間、あたしは走り出していた。そしておばさまの胸に飛び込んで大きな声で泣いていた。

「うっく……お母さん……お母…さん……」
「あらあら……ねぇ克樹?あなたのお嫁さんは……泣き虫…ね……」

おばさまはそう言ってあたしの髪をいつまでも撫で続けてくれていた。


克樹……あなたは私の心の中で生き続けている……

それでいいんだよね?

だから……

いつか、またね……



END


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