ewig〜願い〜-4
「会いたいか?」
不意に隣から俺の心の中を見透かされたような言葉が発せられた。
「誰にだ?初瀬道」
俺が誰に会いたがっているというのだ。
俺は誰にも会いたいわけじゃ・・・・
「あの子のこと考えているんだろー?ほら、前はいつもお前のそばで世話していた子。」
こいつはたまに鋭いところがある。
そう、俺は心のそこから絢芽を求めていたんだ。
絢芽に会いたい――。
絢芽に触れたい――。
絢芽を――。
そう考えたところで思考をストップした。
邪まな想いが俺を支配しようとしていたから。
この想いは閉まって置かなければならない。
蓋をして深く、深い心の奥底へと――。
「そんな顔するなよ・・・。」
「え?」
急に振られ、思考がついていかない俺は間抜けな声を出してしまった。
「お前今、すげー辛そうだったぜ。いつも無表情で何考えているのかわからなかったお前のことが今じゃ手に取るようにわかってしまうほど顔に出ているぜ。」
初瀬道の言葉に蓋をしようとしていた想いが一気にあふれ出す。
「俺に・・・人好きになる資格あるのかな・・・。」
俺は親から愛をもらわずに育ってきた。
そのため、人にどう接していいかわからなかった。
ただ、愛されたいと願うばかり。
だが、この家にいると世間の人は俺の財力や権力目当てだと、思い知らされて人に関わるのが億劫になった。
だから、必要以上のことは何もしないようにしていた。
女中にだって情が沸く前にさっさと解雇していたし、必要以上の貴族との交流も避けていた。
だが、絢芽はそんな俺にいつも『温かさ』を持って接してくれた。
俺がどんなに冷たくあしらっても、いつもそこに『温かいもの』があった。
俺はそれを手元に置いて大事にしたいと思ったんだ。
「誰にだってあるさ。人を好きになれる資格なんてもんは。」
微笑みながら初瀬道はいった。
あぁ、こいつにもあるんだ『温かいもの』。
絢芽がくれたものとは違うけど、こいつにもちゃんとある。
「人は恋して変われるんだぜ?どんなに冷酷な殺人犯も政治家も、恋をしてそいつのためになりたいと思ったら変われるんだ。現にお前は変わったよ。丸くなって、周りに優しくなった。」
「初瀬道・・・・。」
俺はたぶん笑っていたと思う。
だって嬉しかったんだ。絢芽を手元に置いていてもいいといわれた気がしたから。
その日の夜、俺は庭を散歩していた。
庭を流れる小さな川と池には空が下にもあるのではないかと思ってしまうほど、綺麗に映し出されていた。
「今夜は満月か・・・」
小さな池には綺麗に満月が映し出されていた。
俺は池の中の月に手を伸ばした。
その月は、触れた瞬間に揺らいで見えなくなってしまった。
「まるで人の心みたいだな・・・・・・」
「人の心はこんなにははっきり見えませんよ?」
池のほとりにただずんでいた俺の後ろから温かい声が降ってきた。
「久しいな・・・・・・お前と言葉を交わすのは」
声だけでわかるなんて俺もよっぽど惚れ込んでいるなと感じた。
体全体で求めていたんだろう。
体が熱く、赤く、たぎっていくのがわかる。
心臓が持たないかもしれないほどに、激しく動いていた。