花火師と花火玉-4
「よう、お帰り」
「・・・」
「なんだ、元気ねーじゃねーか。ひょっとして明日のこと考えて緊張してんのか?」
「・・ばーか、んなわけあるか。てめぇこそぶるってんじゃねーのか?」
「花火玉が花火大会びびってどうすんだよ」
「…いよいよ明日だな」
「ああ、明日だ」
「てめぇともお別れだな」
「ああ、お別れだ」
「せいせいするぜ」
「こっちのセリフだ」
「けっ・・・さてと、じゃあなんかしゃべるか」
「おいおい、どうした?珍しいこというじゃねーか。明日雨降ったらまずいだろ」
「・・・やっぱ寝る」
「冗談だ、落ち着け」
「まったく・・・最後だから少しは話に付き合ってやろうと思ったのに」
「いや、あんまりにも珍しいことを言うからよ」
「・・・別に。なんとなくそう思っただけだ」
「じゃあよ、相棒が花火師を目指すきっかけをもっと詳しく話してくれよ」
「小2・・・ぐらいだっけかな。親に近所の花火大会に連れて行ってもらったんだよ。んでまぁ打ち上げ花火を見たんだが・・・今でもあの時の花火のでっかさは覚えてるよ」
「なるほど、それで花火師になったのか」
「うーん、まぁ、それもあるけどまだ他にもあるんだ。俺が打ち上げ花火に夢中になってるときに親父が上じゃなくて下を指差すんだ。最初はなんで下なんか見なくちゃいけねーのか意味がわからなかったんだけどよ、花火が打ちあがるところに動くものがあったんだよ。まぁ、花火師だったんだけどさ、そん時に『あぁ、この花火は人が作ったものなんだ、こんなすっげぇものを人は作れるんだ』って思ったんだよ」
「へぇ・・・」
「そんで、じゃあ俺もこんな風にすげぇものを作りたいって思ったんだ。そんで花火師になったんだよ」
「なかなかどうして、立派な理由じゃねーか」
「花火師になったきっかけを話したのはてめぇが最初だ」
「ほう、そいつは光栄だ。」
「…まったく、なんで今まで誰にも話したことのない昔話をてめぇなんかにしなくちゃいけねーんだ」
「俺のこと信用してんだろ」
「へっ・・・言ってろ」
「まぁ、最後の話としては上出来な内容だったな」
「・・・」
「…おい、どうした?」
「なぁ・・・やっぱり明日やめとかないか?」
「あん?何言ってんだ?」
「…お前明日打ちあがったらそれで終わりだろ?木っ端微塵になるんだろ?」
「まぁ、そうだわな」
「・・・いいのかよ、それで。死ぬんだぞ」
「いや、俺に死ぬっていう概念があんのかはわかんねーけど…」
「・・・ここにいろよ」
「・・・」
「・・・」
「・・・なぁ」
「ん?」
「もしさ、相棒が子供の頃にその花火大会に行かなかったとしたらどうなってた?」
「え?」
「仮定の話だよ。もしその花火大会に行ってなかったとしたら今頃何になってた?」
「・・・さぁ、考えたこともないからわかんねぇ」
「そうだ。なろうと思ったら何にでもなることができる、それが人間だ」
「・・・」
「でもな、俺は花火玉だ。今いる理由はただ一つ、夜空に花を咲かせること、それだけだ」
「・・・」
「相棒がそう言ってくれたのはすっげぇ嬉しかったけどよ、明日の花火大会が俺の存在理由なんだ」
「・・・そうか」
「ああ」
「わかった、変なこと言って悪かったな」
「…ありがとよ、相棒」
「よせよ、柄にもねぇ。寝るぞ」
「ああ、そうだな」
「おい、起きろ」
「んぁ、…わかったよ」
「最後まで情けねーな、おい」
「・・・ほっとけ」
「さて・・と、行くか」
「ああ、行くか。さっさと行って早く筒に詰めないとな」