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花火師と花火玉
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花火師と花火玉-5

『おーい、健吾。11番から35番までB-3に詰めろ』
「うーす」

「おい、いいぞ」
「大丈夫か?」
「ああ、今は誰もいない」
「そうか」
「いよいよだな。大丈夫か?」
「若干怖い」
「そうか。安心しろ、お前なら大丈夫だ」
「不発とかになったらどうしよう」
「ならねーよ」
「上手く打ちあがるかな?」
「打ちあがるよ。心配すんな」
「・・・」
「・・・大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
「そうか、じゃあ入れるぞ」
「あ、待て、相棒」
「どうした?」
「名前さ、付けてくれよ」
「へ?」
「名前だよ。他の奴らみたいに番号じゃなくて、名前付けて欲しいんだ」
「名前か」
「ああ」
「そうだな・・・迦具土ってのはどうだ?」
「かぐづち?」
「ああ、日本神話に出てくる火の神様の名前だ」
「博識じゃねーか、相棒」
「ガキの頃神話とかが好きでな。で、どうだ?」
「悪くねぇ。神様の名前ってのがいい」
「豪儀なてめぇにはぴったしだろ」
「ちげえねぇ」
「かっかっか。・・・じゃあな、迦具土」
「あばよ、相棒」


夜、花火を見るために集まった人々と、出店の掛け声で祭りは賑わっていた。
「結構来てますね、親方」
『ああ、去年よりかなり多いな。まぁ作った側としては嬉しいことだが』
「そうですね」
『親方、時間です』
『よーし、それじゃあみんな、おっぱじめるとするか!』
『おーー!!』
『A-1とA-2を順次点火していけ!』
次々と夜空に花が咲き始める。最初は歓声をあげていた人々も次第に夜空の大輪に魅入り始めた。
『よーし、次はA-3からA-5までだ』
「うーっす!」

『よし、Aは終わりだ。次、Bに行くぞ』
『親方、B-1の6番が反応しません』
『不発か。しかたない。6番は飛ばしてB-2に行け』
(・・・迦具土)
『よーし、そのままB-3を点火しろ』
「・・・」
(行ってこい、迦具土!!)

その時、夜空に一際大きな花火が打ちあがった。


メインの花火も終わり、人々は帰り始めた。その胸に確かな感動を残して。

『よーし、今年の花火は例年と比べてかなり上出来だった。お前ら、良くやった!!』
『しゃー、宴会に行くぞーー!!』
『おーー!!』
『健吾、良くやったな。お疲れさん』
「親方・・・」
『ん、どうかしたか?』
「・・いえ。綺麗な・・・花火でしたね」
『そうだな。なんというか今年の花火は勢いがあったな』
「そうっすか?」
『ああ。さ、宴会に行くぞ』
「すぐ行くんで先に行ってて下さい」
「ん、わかった」

いまだ花火の名残である煙が立ち込める夜空を眺める。
「へ・・・何が怖いだ馬鹿野郎。・・・立派な花咲かしたじゃねーか」
(当たり前に決まってんだろ、相棒)
もやのかかった空の中、確かにそんな声が聞こえた気がした。

        〜終〜


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