飃の啼く…第17章-4
それからも、同じようなことが続いた。いや、ますます酷くなっていった。朝登校したときは普通の茜でも…夕方が迫るにつれ、常軌を逸した行動をとったり、おかしなことを言ったりするようになった。それでも…
「おっはよ〜、さくら!」
「あ…お、おはよ…」
次の日の朝には全く覚えていないようで、けろりとしているのだ。周りは、受験勉強のストレスだなんていうけど…この感じは違う。昼ごはんの時に不意に見せる憎しみのこもった眼差しや、部活での練習試合で私に向かってくるときに発せられる殺気は…ストレスなんかじゃない。もっと不自然なものだ。
「日向…?」
茜の彼氏なら、彼女に何が起きているのかもっとよくわかるんじゃないかと思って、日向君のクラスとか、部活が何か知らないか回りに聞いてみた。
「そんな奴、いたっけ?向井なら一つ上に居るけど。」
誰に聞いてもこうだ。おかしすぎる。なぜ茜が、架空の彼氏を作り上げる必要がある?そう思って、廊下を教室に戻ろうとした瞬間、誰かに腕をつかまれた。
「い…たい…!」
痣になるほど強く。
「こそこそ嗅ぎまわって、何のつもり。」
信じたくなかった。でも、私の中にある、冷静な部分は信じるしかないと告げていた。
「茜…」
さらに強く手に力を入れて、凄みのある顔で私をねめつける。
「いぬみたいに嗅ぎまわって、何のつもりかって聞いてんのよ!!」
彼女はもう…かつての英澤茜ではない。
「…あ、かね…?」
声を荒げる茜と、彼女に手をつかまれたまま立ち尽くす私たちの周りを、他の生徒たちはなんとなく避けて通っていった。
常に荒い息遣い、青ざめた顔、目の下の隈、そして血走った目。
その目が、憎憎しげに私を見ているのは、私になにか…問題が…私が、澱み退治にかかりっきりで、茜の相談にもろくに乗ってやれなかったから…私が、自分のことばかり考えていつも愚痴ってたから…
そして、叩きつけるように手を放して、人の群れの中に、あっという間に身を隠してしまった。
私はなす術もなく、何と無く気の毒そうに私をのぞき見る生徒たちの群れから逃げるようにその場を後にした。
「心配事が多すぎて…頭が変になりそ…。」
声に出して呟く部屋には、今日も飃の姿が無い。また仕事。私の知らない用事だ。
心配事がいくらあったって、解決の見込みがあればこんなに悩んだりしない。飃は自分の仕事について何にも話してくれないし、茜ときたら、次の日の朝にはすっかり元通りになっているんだから聞くに聞けない。