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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第16章-4

―さくら…
「九重…?」
―さくら…
九重は、狂おしげに息をついた。
「ごめん…なさい…九重…」
私は、彼女の苦しみが自分のせいである事を知っていた。
―謝らないで、さくら…ああ
影は、とても幸せそうに空を仰いだ。
―たくさん倒したものねぇ…そして、たくさん助けてあげたねえ……でも…でもねぇ…
影は、辛そうに俯いて、涙の様な花弁を散らした。

―さくら…貴方を助けてあげたかった…でも、私にはもう…

「九重…!」

―さくら…これ以上は…とても抑えておける…自信が…な

「さくら!」
「は ぁっ…!!」
九重に向かって延ばしていた手は、飃に握られていた。椅子に座っていたはずの私の身体の節々が痛むのは、いつの間にか床に寝そべっていたからなのだろう。
「どうした…?」
私の身体を抱いて、飃が頭を撫でてくれる。
「九重が…」
声がかすれていた。叫んでいたのは、夢のなかでだけだったはずなのに。
「九重が…死んじゃう…」
かすれているせいでうまく声が出ない。囁く様に、私はいつしか泣いていた。

「九重は…私の何を抑えてるんだろう。」
幾分か冷静さを取り戻した私は、飃がつくってくれた薬湯にあたためられていた。
飃は、椅子に座らないで台所の縁に腰掛けていた。
「さくら、狗族ではない犬や狼たちが、我々を何と呼ぶか、分かるか?」
私が首を振ると、飃は言った。
「闇代(やみしろ)と呼んでいる。忌まわしい闇を宿す者と言う意味だ。」
どうして…私が聞きかける前に、
「狗族は、自らの身体に闇…つまり、あなじを宿す代わりに力を手に入れたのだ。彼らはそんな我々を嫌っている。」
闇…あの獣の事か。時たま飃の目を燃え上がらせる炎…それは、触れた者の魂を奪う真っ黒な風。

「狗族はみんな…あの獣を内に飼っているんだっけ…?」
「かつては。」
飃は静かに答えた。何かを起すのを恐れる様に。
「今、目が覚めたあなじを宿す狗族はほんの一握りだ…己を含めて。」
そして、私の目を覗きこんだ。結晶帯の奥にある物まで見透かしてしまうあのまなざしで。
「九重にひびが入る様になった時からもしやとは思って居たのだが…九重が押さえようとしているのは…お前のあなじなのかもしれない。」
「ばっ…なぁに言ってんのよ!」
悪い冗談だと、笑い飛ばそうとした私の笑い声は、飃の沈黙に掻き消された。
「そうならば…良いが…。」

大体飃は心配性だ。おまけにマイナス思考で、問題を一人で抱え込む。精神疾患にならないのが不思議な程だ……いや…もしかしたら…そうした感情が、あの獣の餌になっているのか。そして、与えられた餌が、「力」となって返って来る…そう言う共生関係にあるのかもしれない。
「どうした?」
今度は飃が聞く。
「…なんでもない…」
…いや、悩みをため込む性格については私がどうこう言えないか…もし…もし、私の中に“あれ”が居たら…?

そして、わたしは飃ほど 強くは無い…。


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