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地図にない景色
【初恋 恋愛小説】

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地図にない景色・2-10

「うん?何って今週の新作。この時期、商品の入れ替わりが激しいからね。今の内に食べておかないと、二度と口に入らないものもあるし」
 それじゃあ、勿体ないでしょ?
と、笑いかける彼のスケジュール帳には、いったいどうやって調べてきたのか。コンビニというコンビニのあらゆる新規商品の情報がズラリ。
 正直、こうして眺めているだけで、あたしなんかはおなかいっぱいという感じ……
あっ、じゃがり○の新作が出てる。
「って、そうじゃないでしょっ!」
 スケジュール帳を突っ返して、あたしは叫んだ。
「やることがないってどういうことよ!昨日、言ったじゃない。出来るだけ善処するって。それを何もしないうちから帰ろうなんてそうは問屋が……って、何が可笑しいのよ?」
「いやいや。10年以上も経つのに変わらないものもあるんだなと思って」
「はあ?」
 変わらないって、何が? 訝しむあたしを、光司はどこか遠い目で眺め、けれどそれも一瞬、いつもの飄々とした顔で言った。
「……こっちの話。それはともかく、やることがないっていうのは正確じゃないな。
彼女には俺の力なんて初めから必要じゃなかったんだからね」
「それってどういう意味?」
 訊ねるあたしに、彼は肩を竦めて、
「言葉の通りさ。自覚がないっていうのも考えものだけどね」
 最後まで訳のわからないことを言って、歩き出す。
「ちょっ、待ちなさいよ!」
 そんな静止の声もまるで聞いてやしない。後ろ手に手を振り、本当に公園の外へと消えていってしまった。
「もうっ。何なのよ、あいつは」
 そんな文句も彼にはもう届いてはいない。
後に残されたのは憮然と立ちすくむあたしと、
「あ〜あ。完敗か」
 妙に晴れ晴れとした表情で、彼の背を見送った恵美だけだった。
「迫真の演技だと思ったのに、全然通用しやしない。まっ、初めからバレてたんじゃしょうがないか」
 こんな恵美を見るのはずいぶんと久しぶりだ。彼氏と別れてからこっち、恵美がこんな明るい表情をすることはなかった。
 いったい、どんな手を使ったのかはまるでわからないけど、少なくとも彼は約束を果たしてくれたということなのだろう。
 それだけは感謝せねばなるまい。
「恵美」
「おいしいとこ全部持ってかれた復讐をしようと思ってたのに。だいたい、アキラもアキラよ。嫌なら嫌って言ってくれればいいじゃない!」
 ビシッと指差し、恵美。
「ごめん……」
「ホント、気が強いかと思えば、妙にしおらしいとこがあるんだから」
「だから、ごめんって」
「ダーメ。許してやんない。こうなった負けた腹いせにトコトン付き合ってもらうわよ!とりあえずは『ラフール』のデザート食べ放題、目標は30品制覇ね!!」
「そっ、そんな〜」
 閑静な公園に木霊する恵美の宣誓にあたしの悲鳴。
 それは帰ってきた、得難き日常風景。


「――あっと、もうこんな時間か」
 昼休み終了、10分前。
 にぎやかな教室に鳴り渡ったチャイムの音に、あたしの回想は終わり告げ、恵美は憩いの時間の終わりに小さく舌打ちをもらした。
 進学校を気取る我が校にあって、昼休みはことさら短い。
 話に聞くところによると取る学校では一時間はあると聞くのだが、ウチでは45分という短さだ。
 お弁当を食べ、少し雑談を交えたならもう昼休みは終わってしまう。
 普段ならここでなんて忙しない時間割りだと、恵美と二人、文句のひとつもつけ合うところなのだが、今日に限って言えば、感謝の念を抱かずにはいられなかった。


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