年の差-1-2
「いいね〜シャンパンでも、飲んじゃう?」
私もワクワクしてきた。
「おう!買っておくわ!」
声が楽しそうで、なによりだ。
「じゃ…そうゆうことで、そろそろ戻るわ」
「おう!気をつけてな!」
「うん。じゃまたね」
「おう」
陸の声を聞いてから、私から切る。
二人の暗黙の了解。
電話は私から切る。
『バイバイ』は言わない。
聞いたら、お互い余計寂しくなるから。
電話を切った後、研究室まで戻る道程が寂しい。
これは、いつものこと。
学校では、「神経が図太い、肝が据わっている、辛口」が代名詞の私。
そんな私が、弱音を見せる訳にはいかない。
そう。
陸がいなければ、私は今でもあの人への気持ちに、囚われていただろう。
「あれ?もうお話は終わり?」
研究室に戻ると、高井がいた。どうやら、今日やることは終わり、マンガを読んでいる。
「あれ?まだいたの?」
「まだいたの?ってね…ちょっとは、女の自覚したら?ここから駅まで一人で帰す訳には行かないっしょ?」
再び、マンガに視線を戻す。
「自覚はしてます。だって、彼氏が…」
「分かったから。早く、手を動かしなさい」
「…はい」
高井に言われながら、データの整理を行う。後十数分で終わりそうだ。
「…そういえば、あんた彼女といつ、別れるの?」
パソコンのキーを叩きながら、尋ねる。
「ん〜学校卒業したら」
「へ〜彼女、可哀相」
高井の彼女は、他校にいる。2つ年下で、今度大学受験するらしいが…
その彼女に、愛想が尽いたらしい。話を聞いていると、考えが甘い、という印象を受けた。
結構すごい進学校に通っていて、バイト経験は疎か、部活にも入っていないらしい。
でも、そんな彼女が、今度高井が編入学する大学を目指しているらしい。
その努力は認めるべきだと思うが…
「あいつ、元々は地理とか、歴史とかが好きなの。でも、勉強は出来るから理工学部でも何の問題もないって、言ってる」
要するに高井の言っていることを、纏めるとこうだ。
好きな人がいるからと言って、自分の志望大学まで替えるな、ということ。
「自分の意思で決めたかもよ?」
データを保存し、パソコンをログオフする。
「ないな。ハッキリ言った。『俺がいるから』だって。」
読んでいたマンガを、元の場所に戻して、帰宅の準備に入る。
「自惚れじゃないの?だって、将来を決める道を、彼氏…それも高井がいるからって決めるかなぁ?」
書類や必要なものを、鞄にしまう。
「北野こそ失礼だろ。」
そう言って、部屋の電気を消す。
「消すなよ。まだ、コート着てない」
怒りながら、手探りでコートを探す。
そんなことをしていたら、後ろで『カチャ』と、音がした。
「で、高井はカギをしめたの!私がいるのに!」
グラスを片手に陸に愚痴る。
「で?どうしたのよ?」
「わっ!って、驚かされた…」
恥ずかしいから、俯きながら言う。
「えー!入って来たの、気付かなかったわけ!」
笑いながら、陸が聞く。
「だって…暗くて、見えなかったし…」
「それにしても、相変わらず鈍感だなぁ」
サラダを食べながら言う。
今日はクリスマスパーティー。
一人暮らしの陸の家で、二人でクリスマスパーティー。
1LDKと、一人暮し用の部屋で、二人で料理を作る。
と、言っても大したことは出来ないので、パスタにサラダに後はお酒。
パスタは、明太子味で、サラダは、水菜と大根をシーチキンで和えたもの。
クリスマスだが、なぜか和風テイストになるのは二人の好みが、和食だから。
肉より、魚。
ソースより、しょうゆ。
そんな好みだから、お互い楽なんだろうと思う。
「鈍感でごめんねぇ〜」
パスタを口にほうり込みながら、何で高井があんなことをしたのか考えた。