BUCHE DE NOEL-10
「これで」
「かしこまりました」
メモに注文を書きつけると、奥の厨房(というよりはキッチン)にいる男の人にメモを渡した。彼はとても穏やかな表情の優しそうな人で、アヤノさんとぴったりな感じがした。
「今日ねぇ、プレゼント持ってきたよ」
「お〜!俺もだぜ」
はい、と紙袋を渡した。彼女は中の包装ビニールを綺麗に開けてゆく。
「うさぎのぬいぐるみ…!」
ありがとう!ととびきりの笑顔で笑う彼女を見て、俺の胸は高鳴る。自分の心臓の音に困って、きょろきょろしてしまう。
「私はバイバイするときでいい?ここで渡したいって場所で渡したいの」
「いいよ」
やった!と彼女は笑って水を飲んだ。そこに、アヤノさんがドリンクだけ持ってきて、コースターの上にのせた。
「さっきお兄ちゃんに送ってもらったって言ったでしょ?」
「あぁ」
「お兄ちゃんの奥さんね、もうすぐ赤ちゃん生まれるんだぁ」
だからお見舞いに来ないで!奥さんのそばにいてあげてって怒ったんだよ、と彼女は嬉しそうだ。
「お兄さんと一緒に住んでるの?」
「うん、両親いないからお兄ちゃんと綾乃ちゃんがたより!」
やっぱりにこにことはなす。なんて明るい子なんだろうと改めて思った。
「あのさ、まりあは何で入院してたの?」
あんなに話したのに、しらないことが本当にたくさんあって、会話は自然とでてきた。
「んーよくわかんない」
「ほんとに?」
「うん」
走ったら急にしんどくなったの、と言った。トーンが下がったまりあを見て、俺はなんだかまずいことを聞いた気がして戸惑う。そこに、オムライスが温かな香りを纏ってやってきた。
「いただきまーす」
美味しいね、とパクパク食べる彼女を見て、俺はすごく落ち着いた。そばにいて、こうしているということがものすごく大切に思えた。
だめだ、俺おかしいや。
俺は慌ててオムライスを口に運んだ。
「あっつ!」
「雪兎、フーフーしないからだよ〜」
きゃっきゃと笑うと、またオムライスをスプーンですくう。俺はどうしてだかうまく笑えなかった。
食事のあと、俺たちはいろんなところをのんびり歩いた。きらきら光るアクセサリーや、ディズニーのキャラクター、美味しそうなケーキのならぶ店などを、本当にのんびりとまわった。
ふと携帯をとりだして時間をみると、もう6時をまわっていた。
「ごめん、そろそろここでないと」
「わかった!じゃあ最後にひとつだけついてきて」
10分くらいでつくから、と専門店街をでる。
「今日は遊んでくれてありがとう」
「いや」
それきり、彼女は目的地の公園につくまで何も話さなかった。繋いだ手が暖かかった。
大通りを曲がると、そこにはすぐついた。しゃあっと噴水が水を吹き上げ、横には大きなクリスマスツリー。
「雪兎が本当に遊んでくれて、嬉しかったよ」
急に彼女が大人びて見える。俺はどぎまぎする。