結界対者 第四章-12
間宮とは、その場所で、そのまま別れた。
しかし、やりきれない思いを抱えたままの俺は、真っ直ぐに部屋に帰る事も出来ずに、宛てもなくフラフラと神埼の街を走り回る事にする。
そういえば、間宮は浜辺での出来事をサオリさんに話しただろうか……
ふと、そんな事を思いついて、俺は目に留まった自販機の前にバイクを停め、ポケットの中のコインを探りながら、謎だらけの今日を振り返り始めた。
楽箱に居たジルベルト、
浜辺に現れた忌者、
間宮の呟いた言葉、
サオリさんの嘘……
ここまで考えて、実は間宮は何もサオリに話さないのではないかと、少しだけ思う。
何しろ、あの先ほどの出来事の後だ、間宮なら当然気を遣うとおもう。
そういう奴なのだ、間宮は。
だとしたら、俺は明日にでも、サオリさんに訊かなければならない。
いや、サオリさんが全てを知っているという確信はないのだ。
ただ、何か手掛り的なものは得られそうなきがする。
それに、昼間の出来事はジルベルトが深く絡んでいる、これだけは絶対に間違いないと思う。
やがて、ガコンという音とともに、取りだし口へコーヒーが落ちて来た。
俺は、そいつを取出そうとかがみこむ、すると胸ポケットの中で携帯が突然ブルっと震えた。
見慣れない番号だな……
開いた画面には、見た事の無い番号が写し出されていたが、特に気にはせずに電話に出てみる事にする。
「もしもし……」
「あ、イクト君?」
電話の向こうは、何故かサオリさんだった。
返事に困っている俺をよそに、サオリさんは忙しく言葉を続ける。
「ごめんね、イクト君。どうしても話したくて、セリの携帯で番号を勝手に調べちゃったの。許してね」
「あ、いえ……」
「イクト君は、さっきのあいつらが誰だか、何者なのか気が付いていたのよね?」
「え? あ、はい……」
「お願い、セリには黙ってて。詳しい事は、あとで私から話すから」
「え?」
「それと、連休中は、ウチで過ごして欲しい」
「……?」
「極力、アナタにもセリにも、一人で居て欲しくないの。そうね、お店を手伝って貰えると助かる。バイト代はちゃんと払うから。でないと今は、ジルベルトの人間が……」
そう言いかけたサオリさんの、電話の向こう側のサオリさんの更に向こう側で、微かに間宮の声が聴こえる。
「お姉ちゃん…… シャンプーがたり…… 持っ…… 」
「と、とにかくイクト君! 明日と明後日はウチに来て! 詳しい事は、その時が来たら本当に話すから。お願いね、じゃあ、切るね!」
そして、電話は切れた。
俺は、訳も解らずに呆然と立ち尽くす。
最近、こうする事が多くなったなと、ボンヤリと思いながら夜空を見上げると、堕ちかけた月が銀色に輝きながら、静かに光を放っていた。