投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「集結する者たち」
【ファンタジー その他小説】

「集結する者たち」の最初へ 「集結する者たち」 2 「集結する者たち」 4 「集結する者たち」の最後へ

「集結する者たち其の一」-3

「さて、あとは獣医だな。この近くの動物病院は……」
一番近い動物病院といえばどこだったかな……。裕之が今やゾンビと化した丸い生物を運ぶ為のケージを探していた、その時、
「待て……」
丸い生物が口を開いた。裕之は多少驚くが、すぐに平静を取り戻す。そのまま、丸い生物の言葉を待った。
「病院なんか、行かなくても大丈夫だよ。“どの世界”でも医者は信用できないし……なにより、行く必要がない。こんなの、ボクなら少し休めば治る」
そう喋った丸い生物は、裕之の眼にはさっきより元気に見える。出血が止まっているみたいだ。俺の止血のおかげだな、なんて考えたが、口に出す事はなかった。何故なら裕之は、手を洗う為、階下に下りたからだ。二階に水道はない。
手は……丸い生物の血で染まっていた。さすがに気分も滅入る。洗う必要があるだろう、しっかりと消毒して。
「あ!ちょっと待って……まあいいさ。待ってよう」



消毒(ただの消毒液ではない、キ〇イキ〇イだ)した手はさっぱり。血の痕など少しも残らない。しかし夜中に手洗いなんて、久々だな。と、
「ボクの話を聞く気になったかい?」
丸いゾンビ生物が裕之に尋ねる。裕之にとっては、こんな丸いゾンビ生物が人語を解するあたり、ロクな事が起こらない、と気付いていたが、
「めんどいけど……仕方ない、聞こう」
諦めた。厄介ごとに巻き込まれるのには慣れているんだ、そう心中で吐きながら。
「よし。じゃあ、率直に訊こう。ここはどこ?」
「は……?」
裕之は呆れ顔を浮かべた。ここはどこ?貴様、市役所に行ったほうがいいぞ。
「聞こえなかったの?ここはどこ?」
「……えっと」
裕之の眼は、すぐに元の、起きているのか寝ているのかよく分からない半眼に戻る。これは真剣な顔つきだ。決して眠いわけではない。ゾンビ生物の顔は、マジだ。
「ここは愛知県、刈谷市……だけど?」
だから裕之もそれに応える事にした。多分、間違いはない……はずだ。長年俺が暮らしてきた故郷だからな。
「……残念ながら、それは違うよ」
しかし、ゾンビ生物は答えた。
「ここは鷹須賀崎(たかすがさき)県鷹須賀崎市……なんだ」
なんだ、それ?聞いた事ない。裕之には全く分からなかった。
「ちょっと待て。いろいろツッコミたいが、ちょっと待て。……なんだって?」
「だから、鷹須賀崎県鷹須賀崎市……」
「言ってる意味は分かった。それはいい。いいが……どこだ?そこは」
裕之の問いに、ゾンビ生物は答える。真実を。
「ここだよ。……混乱するのは分かるけど、落ち着いてもらえると嬉しいな」
ここ?裕之は小首を傾げた。
「だからここは愛知県刈谷市で……」
「……いい加減、認めなよ」
ゾンビ生物は無情にも言い放つ。
「ここはあなたのいた世界じゃない。そう言えば満足かい?」
凍った。裕之の身体は氷のように。 混乱しているわけではない。呪っているのだ。
こんな厄介事に巻き込まれかけている自分を。
「……分かった分かった。ここは鷹須賀崎県鷹須賀崎市、な。そして俺は別の世界の住人だと」
もちろん、そんな事は信じてはいない。理解する気も起きないらしい、適当な返事。しかしゾンビ生物は、
「恐ろしいほど理解力が高いね。とにかく、そのとおりだ。あなたはこの世界とは別次元にある世界から“連れられて来た”。ここ、新たに作られた世界に」
完全に気付いていないらしく、話を進めた。
そこまで言われると、さすがに裕之も目を見開く。半眼が見開かれても、普通の大きさになるだけだが。
「連れられて来た?新たに作られた世界?なんだそりゃ?」
裕之はさらに首を傾げる。
この世界が新たに作られた世界?
いや、それ以前に俺が連れられて来た?何故だ?


「集結する者たち」の最初へ 「集結する者たち」 2 「集結する者たち」 4 「集結する者たち」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前