ゆきのした。-17
「透、お父さんのお酒は?」
「も…もう無いよ……それよりも…か、母さん…ずっとお酒飲んでると、体に…」
「お金あげるから買ってきてくれない? 二千円以下ならなんでもいいわ」
「……あの…買えないよ…まだ、子供だし…」
「その口の利き方は、一体どこで覚えたの?」
「……えっ…………?」
そしてある日突然、雪柳家から母さんが何故いなくなってしまったのか、
今でも理解できない。
「…父さん……母さんはどこに行ったの?」
「……一人で…雪柳の姓を捨てたんだよ…」
「……………」
そういう意味では理解している。
違う意味で理解できないんだよ、父さん。
今の世の中、DV…" Domestic Violence "と呼ばれる行為があり、
僕はそれに値される様なことを母さんから受けていたらしい。
父さんから聞かされた内容だけど、尤も簡潔的な話だったので長くならずに
一言で済ませられる。
いつからか、わからぬ内に僕は虐待されていた。
…そう。 僕が理解できないのは、この部分。
何故、母さんが、母さん一人だけが雪柳家を去ったのか…今でも
僕には理解できていない。
「…………………」
なんだろう。 顔の上部…特に目の辺りが温かいような、冷たいような。
右手の甲で、それをぐいっと拭い取るようにして払い除けた。
意識が大分覚醒する。
姉ちゃんに布団を被せてやって、それからソファーで少し横になったら…
眠ってしまったのか。
かちり、かちりという音が妙にうるさく聴こえる。 …僕に何かを訴えているのだろうか。
目をやると、その音の正体は時計。 時刻は…と凝らして見ようとした時、
今度はがちゃりと玄関の方から聴こえた。 これは…