ヒトナツB-5
……。
はっきり言って、失敗した。
このアホ。
一杯飲んでベロベロになりやがって!
「けーんごぉー」
「うるせ!騒ぐな!」
ここは物静かで大人の味を楽しむところなんだよ。
***
さすが、雰囲気がいいな。
俺たちは薄暗いカウンターにゆっくりと座る。
初心者だと悟られぬように。
軽いものを二つ、なんてかっこつけて言ってみる。
正直、カクテルの名前なんてわからないからな。
なんか青とピンクの二つのカクテルを出された。
カップルにお出ししているカクテルです。
なんて言うバーテンダー。
否定するのも面倒なので、どうも、とだけ言うと、グラスを持った。
渚も顔を赤くしながら慌ててグラスを持つ。
乾杯。
小さな声でグラスとグラスを合わせる。
チン、という音が響く。
よし、なかなか様になってんじゃん、俺。
くいっと控え目に口をつける。
ほのかな酸味と甘みが口に広がる。
こんなカクテルなんて初めてだけど、なんかいいな。
渚はどうだろうかと、様子を伺う。
……。
酔ってる。
絶対酔ってる。
顔を完全に真っ赤で、目は視点が合わずにトロンとしてやがる。
***
これが、ほんの数分前の出来事。
そして、騒ぎ出したのが一分ほど前。
こいつ、全然ダメじゃねーか。
「渚、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫大丈夫」
だめだ。うん。
「すいません、お勘定お願いします」
たぶん普通はお勘定なんてバーでは言わないと思う。
だけど、正直そんなこと考えてる場合じゃない。
これは桜と行くまでに調べる価値ありだな。
「ほえ?」
やっぱり立たせてみると、渚は歩けないらしい。
渚の腕をとり、肩で担ぐと渋々店をあとにした。
「大丈夫か?」
駅までの道のりをただ歩く。
返事は勿論返ってこない。
起きているのか寝ているのかさえもわからない。
俺はその間、渚の小さな息遣いしか耳には入らなかった。