罪-1
俺は、同じ秘書課の坂下さんが社長室に入っていくのを確認した…
時刻は21時。
社長は帰っていて坂下さんは残った仕事をやっているようだった。
俺はドアをノックせず、ゆっくりとドアを開けると手を伸ばせば届くスイッチにふれた。
「え?!」
電気が消えて、驚く坂下さんの声がする。
仕事に集中していてドアが少し開いたのも気づかなかったのだろうか。
俺は社長のデスク辺りに立っていて、焦っている坂下さんを確認すると後ろから抱き寄せた。
「…もう、社長ですか?
びっくりするじゃないですか」
ビクッ!と坂下さんを抱き寄せた俺の手が大きく震える。
この反応…坂下さんは…まさか社長とできているのか…?
…俺は坂下さんの耳元の髪をかきあげて、優しくキスをする。
俺の体内に坂下さんの甘い香りが充満していく。
「ん…社長…だめ…です」
確信した…坂下さんは社長の恋人で、そして俺を社長と間違っていると…
耳元にキスをしながら抱きしめた手を胸元にずらしていく。
好きな人の体が俺の愛撫によって感じていくという快感が、俺の体を熱くさせた。
「だめですよ…社長…」
ぎゅっと胸を鷲掴みにすると体を反らせ、甘い吐息を漏らす。
だが…
「坂下さん…社長と間違うなんてどうかしてる」
俺の声を聞いた途端、ビクッと坂下さんの体が震えた。
「…笹原(ささはら)君…?」
「そうです…社長とできてるんですね」
俺は冷静に言い放った。
本当はこんなことしたくない。
だけど…あなたが好きでたまらない。
そして、社長とできていると知った以上…俺はもはやかなうことはないんだから。
「わ…わたし…そんな…」
「社長には言いませんよ、もちろん。
だけど…」
「だけど…?」
坂下さんはゆっくりと顔だけ俺に振り向いた。
月明かりでしかわからないが…坂下さんの頬は涙で濡れているらしかった。
「今夜だけ…俺に体を許して下さい」
「さ…笹原君っ…本気…?!」
俺は、すぅっと息を吸い込む。
「本気です…俺、ずっと坂下さんのこと好きだったんです。
こんなことしたくない…だけど、社長のものだって知ったら…俺に勝ち目なんてあるはずはないんだ。
今夜だけ…それでかまいません。
俺と社長を間違えたこと、誰にも言いませんから」
「笹原君…」
知ってる。
坂下さんは優しすぎて、断れないって。
俺はひどい。
そんな坂下さんを、利用したんだ。
社長に知られたくないのと同時に俺を傷つけたくないって感情も働く人だと、俺は知ってる。
「んっ…」
俺は右手をスカートの上から這わせていく。
「笹原君っ…あ…ぁ」
「胸より、太ももの方が感じやすいんですね」
「い…言わないでっ…」
スカートの上から太ももの内側を撫でるだけでビクビクと反応する坂下さんの体…こんな風にしたのはきっと社長で。
俺は嫉妬するしかなかった。