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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第15章-5

「…つまり、その、悪い奴は」

覚えているはずなのに出てこない記憶と、まだ覚えている記憶の混在した私の脳みそが理解できる範囲で油良さんの話を理解した。

「私と…その、私の旦那さんが出会わないように、過去を変えちゃったのね?」

「うむ。あなた方の生み出す伝説の武器は強力で、あなた方が皆に与える希望はさらに協力じゃからの。」

冷血動物のはずなのに、どこか暖かいまなざしで、油良は微笑んだ。蛇特有の満月のような目が、優しげに私を見つめている。何だか恥ずかしくて、私はさらに話を切り出す。

「で…私はどうしたらいいの?」

彼は、ゆっくりとした動作で沼を指差した。

「過去へ。お主は飃殿の過去へ行くのじゃ。飃殿はすでに、あなたの過去へ赴いておる。」

私はうなずいた。なぜか、飃という名前は私に勇気を与えてくれる。油良はそんな私の表情を見て、こくりとうなずいた後、沼に向かって呪文を唱えた。すると、森はざわめき、油良の呪文に合わせて、草が、樹が、大気が詠唱し始めた。響く重低音。次第に沼は波立ち、淡く光を発し始める。沼と呼ぶにはあまりに美しく輝く水面は、魔力を持った水銀のようだった。

「さあ!飛び込みませい!」

油良さんの一喝に、私は地面を蹴った。

ざぶんという、水のしぶきの音。その向こうで、油良さんが「御武運を…」と呟くのが聞こえた。



凍るような感覚…体温を奪われ、鼻の穴から水が浸入する。目を開けても、真っ暗で、何も見えない…そこに、揺らめく光…はやく、あそこまで行かなきゃ…空気を求めて、肺が活動しそうになる。まだよ…もう少し…だけ…!



「っは…!」

げほげほと、轢かれた蛙みたいな声でせきをする私の耳に、なんとなく聞きなれた声が聞こえてきた。

「大丈夫か!」

ばしゃばしゃと水の音をさせて駆け寄ってきたのは、背の高い男の人…

……良かった、また逢えて…

そこで、気を失った。



「う…。」

視界がだんだんクリアになってくる。見覚えのある、立派な梁。ここは…そう。ここはあの人の家だ…あの人。そう。

あの人!

「つむじ!……っ痛…!」

飛び起きて、いきなり襲ってきた頭痛に顔をしかめる。ははは…と、少し低い声で笑う、男の声。聞き覚えがあるようで、初めて耳にする声でも合った。声の主を探して見回すと、そこは見たことも無い狗族が座っていた。


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