飃の啼く…第15章-14
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「おじちゃん?」
「ん?ああ…」
慣れない。自分はそんなに老けているだろうかと一瞬鏡を見たくなる。祖父の許しを得て、今夜は幼いさくらに付き添ってやることにした。但し「おかしな事は毛一本ほども考えないようにする」約束付きで。
「何かお話知ってる?」
お話…そうか、小さい子は夜に物語を聞きたがるものだ。でも、自分の子供時代は、ただ遊んで疲れてそのまま寝るという毎日だったため、幼い女の子に聞かせてやれるような物語を知らない。
「む…平家物語…なんて、知るまいな?」
「しらない…。」
さくらの顔がさびしそうにうつむく。何とかしてやりたくて、
「じゃあ、さくらが思いついたことを何でも話して御覧。質問でもいい。何でも答えてやるから。」
小さな子供用のベッドに腰掛け、やわらかい子供の髪をなでてやる。さくらは必死で何か考えている。
「えっとね…じゃあね…パパとママは、どこに居るの?」
「そうだな…」
深く息をつく。さくらは、じっとこちらを見つめていた。
「…それは誰にもわからないんだ。」
「誰にも?おじいちゃんにも?先生にも?」
彼女の世界の中の、一番賢い人たちにもその答えが解らないと聞かされて、さくらは泣きそうな顔になる。
「でも、おじいちゃんが…パパとママはいつでもさくらのこと見ててくれるって言ったもん。」
そう言って、今まで我慢していた涙が、ぽろぽろと零れ落ちた。不安に押しつぶされそうになる、幼い胸。それでも声を立てずに泣く彼女は本当に強い。
飃は、ふと、未来のさくらが歌ってくれた歌を思い出した。
『坊やの母(かか)は何処(いずこ)じゃろ
坊やの父(とと)は何処(どこ)におる
お山に訪ねて聞いたとて
帰ってくるのは木魂(こだま)ばかり
ととは何処(いずこ)におるのじゃろ
かかは何処におるのじゃろ
坊は川にも聞いてみた、
草にも鳥にも聞いてみた
誰も教えてくれはせぬ
坊やのかかは病にて、
坊やのととは戦にて、
帰らぬものとなりにけり
ととは何処におるのじゃろ
かかは何処におるのじゃろ
坊は夜道を一人行く
すると何かがてらしおる