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『正夢』
【青春 恋愛小説】

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正夢〜真夏の夜の悪夢-5

『――お帰り、父さん』
『おう、今戻った!』


父さん――と言ったのはもちろん珊瑚だが。そう、珊瑚の言葉に返事をしたおっさん……この人が珊瑚の父親である高久 拳慈(たかく けんじ)である。

格闘技界の仕事に従事し、今は試合のマッチメイクや人材発掘に全国を飛び回っている。あまり表向きには知られていないが、裏ではかなり名の知れた存在らしい……まぁ自称だが。

おじさんは珊瑚に挨拶を返すと、こちらを見ては露骨に顔をしかめた。


『なんでぇ、悪ガキどもも一緒か』
「久しぶり、おじさん」
『久しぶりだな。ちゃんと学園生活してんのか?』


元々この道場で格闘技を習っていた俺は、あまり気兼ねせずに話し掛けることができた。

おじさんと話をしていると、隣にいた渉が震えているのに気付く。そしてピタッと震えを止めると、いきなり立ち上がりおじさんに叫んだ。


『じじぃッッ、勝負だ!!!』
『あぁ?』
『今日こそ……今日こそお前を倒して、俺は珊瑚と真実の愛をぉぉっ!』


叫び終わるやいなや、渉はおじさんに向かって駆け出す。この前は開始三秒でKOされたらしいが、今回は……いや、今回も変わらないだろう。

珊瑚はまたかと溜め息をつき、恵は笑いながら渉を応援しようとしている。鹿見とエルナちゃんは固まったまま。そして、それらを見終わっておじさんの方を見ると、渉がいなかった。

瞬間、漫画に出てきそうなくらいの大きな音が入口の方から響く。見ると、白眼を向いた渉がまさしくボロ雑巾の様に横たわっていた。


『ったく弱えなぁ。ちゃんと飯食ってんのか?』


あなたと一緒にしないで下さい。心の中で多分恵以外の皆が呟く。

さすが熊殺しをしただけのことはある。非公式だが、虎とも闘ったことがあるらしい。まぁ、そんな人間兵器に喧嘩を売った渉の勇気を讃えつつ、素早く帰る支度を整える。

このままいくと、俺たちにまで飛び火しかねない。とばっちりを受ける前に早く逃げなくては。しかし……。


『おい翔、てめぇどこ行く気だ!久しぶりに稽古つけてやるからよ。ほら、そこのガキ。お前もだ』


おじさんに直接指名され、逃げるに逃げられない状況。鹿見は未だに固まっており、おじさんに呼ばれてようやく気が付いた。


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