正夢〜真夏の夜の悪夢-4
『珊瑚が今日は私の家でパーティーしない?だってよ』
珊瑚の家は後ろ側が道場になっている。そのため、それに比例して珊瑚の家は普通の家庭より大きいのだ。
渉の説明によると、恵もエルナちゃんもすでにいるらしい。珊瑚の手回しの良さに苦笑しつつ、俺達は珊瑚の家に向かった。
珊瑚の家に併設されている道場。その道場内に俺達は招待された。
聞くと、珊瑚の部屋にあの人数は暑苦しいという事で、今は道場で素麺(そうめん)を皆で食べている。
『災難だったね、翔ちゃん』
「まったくだ」
ちゅるるっと素麺をすすりながら答える。もうとりあえず今はその事実を忘れたいのだ。
各々夏に何をするか、そして皆で何をするかと語っていると、不意に外からこの家には似つかわしくない排気音が聞こえた。
『あ、帰ってきたのかな』
箸を止めて珊瑚が呟く。誰が帰ってきたって?
しかし俺の隣に座っていた渉は、この排気音の主が誰なのかわかっているのか、怒りと恐怖が混じりあったような顔をしていた。
そこではたと考える。
珊瑚の家は、珊瑚に両親の三人家族だ。
珊瑚の母親は近くのスーパーで働いているので、別段車や単車を使う必要はない。と、なると……。
ズンッッ!ズンッッ!
排気音が止むと、今度は大地が震えるような足音が聞こえてくる。
そうだよ、わかった……わかったぞ!
足音は迷いなく道場へ向かってくる。荒々しく入口の音が鳴ると、その足音の主が姿を現した。
馬鹿らしいと見えるほどの巨躯(きょく)に見事に日焼けした褐色の肌。外人と見間違う程の隆々とした筋肉が目につく中年の男。
鹿見とエルナちゃんが思考を停止しているのが横目に見えた。
男はぐるりと辺りを見渡しこちらを発見すると、その巨躯に似合わない程の笑顔を見せて近づいてきた。