社外情事?〜鬱屈飲酒と意外情事〜-6
「何でそんな事を聞くのだろう、って顔ね」
どうやら、顔に出てしまったらしい。考えを読まれてしまった誠司は、気まずそうな顔で後頭部をぽりぽりとかいた。
「……おやっさんから聞いたわ。君、嫌な事がたまるとあそこで飲むそうね」
「あ、はい」
「こんな事言うのもアレだけどね」
彼女が、誠司に向かって歩み寄ってくる。
「実は、あんまり気晴らしになってないんじゃないの?」
「……へ?」
「お酒に弱い人がお酒で気晴らしをしても、大抵は余計にストレスがたまるばかりだと思うのよ。だから、無理してるんじゃないかと思ったの」
それを聞いて、誠司はようやく合点がいった。つまりはそう思わせる程に、居酒屋での自分は沈み込んでいたように見えたらしい。
しかし、そこでまた疑問が一つ。
「……なんで、そんな事を聞いたんですか?」
目の前にいる女性と自分は、何の面識もない。それなのに、彼女は何故そんな事をわざわざ聞いてくるのだろう。誠司は抱いた疑問をそのままぶつけた。
だが彼女はその問いかけに答えず、誠司が座るベッドまで歩み寄ると、そこに手をつく。更に誠司の方へとにじり寄りながら、微笑する。その表情は、どこか艶めかしい。
「随分探してやっと見つけた、お酒の好みが合う人。その貴方が、どうしようもない悩み事を抱えてる。晴らしてあげたい、力になりたいと思うのは、おかしいかしら?」
気が付けば彼女は四つん這いの姿勢で、誠司ににじり寄ってきている。バスローブは大きくめくれ上がり、彼女が動く度、胸の谷間や太ももがあられもなくさらけ出される。
男を誘うかのような、蠱惑的なさま。誠司は目のやり場に困り、そっぽを向きながら後ずさろうとする。
しかし、不意打つように伸びた彼女の手が、それを許さなかった。
頬を挟み込まれ、同時に彼女の目が、唇が、魅力的な肉体が、全てが一気に迫る。
誠司は抵抗する間もなく押し倒される。
結果、彼と彼女は互いの顔が瞳に映り込むのではと思うほどの距離で、見つめ合う。
「……普通は、おかしいって思っちゃうんでしょうね。私もそう思う」
瑞々しい唇から、微かにブランデーの匂いが漂う。
「でも、そう思っちゃったの。だから仕方ないわね」
甘く蕩けるような囁き。頬から女性の手が離れるも、誠司は眼前の魅惑から視線を外す事ができない。その間に彼女は片手をつき、空いた手をバスローブの紐にかけた。
――そして。
「だから、忘れさせてあげる。そんな嫌な事」
しゅるり。
微かな衣擦れの音と共に、バスローブがはだけた。
空白。
「……まっ、待ってくださいっ!」
組み敷かれた状態で、誠司がじたばたともがいた。しかし、女性は誠司から離れない。
「わ、忘れさせ、って、それ、まさか俺とあなたがそのっ、アレするって事ですか!?」
泡をくったような顔で、誠司がほとんど悲鳴に近いような声で早口に言う。対する女性は誘うような眼差しで、誠司の頬を撫でさする。
「そ。私とあなたで、セックス、しましょ?」
「初対面な上に、りっ、理由がありませんっ」
「私にはあるわ。それでいいじゃない」
わざとらしく音を立ててベルトを外し、勿体つけてシャツのボタンを一つずつ丁寧に外しながら、彼女は妖艶な眼差しと溶かすような声色で誠司を惑わし、かき乱す。
「据え膳食わぬは何とやら。女の方からいいって言ってるのよ? お互い気持ちよくなれるし、いい事ずくめじゃない」
ぱきん、ぱきんと、理性の砕ける音がする。それでも誠司はどうにかこの状況から抜け出そうと、砕けた理性をかき集めて抵抗の意思を示す。
「いやっ、あなたはそれでいいとしてもっ、お、俺、こういうのはっ」
「……」
と、不意に女性が不満げな顔。同時に動きが止まった。それをチャンスと捉え、誠司は急いで起き上がろうとする。
だがその行動は、彼女の言葉によって遮られた。
「もうっ、男なら四の五の言わないっ」
ぐいと引っ張られるような感覚と共に、彼女の顔が一気に迫る。