狂人達の宴-6
「お兄ちゃん!ありがとう」
嬉しさに思わず春樹に抱きつく。女の子の胸が春樹のお腹に当たった。
「い、いや、まぐれだよ」
「それでも嬉しい!こんなの貰ったの初めてだもん」
「じゃ、じゃあ、もう一回」
あまりの喜びように気を良くした春樹は、もっと喜ばせようと再びクレーン・ゲームにチャレンジして、結局、3ヶの様々なぬいぐるみを春樹はゲットした。
そこからは春樹の独断場だった。
元々、シューティング・ゲームや格闘ゲーム好きな彼は、それらのゲーム機を自在に操作して見せる。
シートに座る春樹に女の子の吐息が掛かる。
甘い匂いに春樹の視線は、意識してしまって、そちらを見てしまう。視界いっぱいに女の子の表情が写る。
大きな瞳、小ぶりな鼻、紅く艶やかな唇からは、少し開いて吐息が漏れている。
(ああ……こんなに近くに…)
その瞬間、春樹は殺られ、ゲーム・オーバーとなった。
「もう!ダメよ、よそ見しちゃ」
「ご、ごめん……」
「ウソウソ、お兄ちゃんゲーム上手いんだね!」
「そうかな…」
「自信持っていいよ。このぬいぐるみも初めてでしょう」
春樹と女の子は、それから小1時間ほどゲームを楽しんだ。
春樹が心の底から喜んだのは、小学生以来の事だった。
ー夕方ー
ショッピング・モールを後にした春樹と女の子は、オレンジ色に染まる出逢いの場所に立っていた。
女の子は両手にぬいぐるみを持って春樹に微笑みかける。
「お兄ちゃん、これ、ありがとう!」
「い、いや、ボクも楽しかった」
春樹も、笑っている。
〈また、会えるかな〉と言おうとした時、
「お兄ちゃん。夜は忙しいの?」
「エッ?」
女の子の問いに、春樹は驚きの声を挙げる。
女の子は春樹の耳元で囁いた。
「夜、8時ごろここに来て……お兄ちゃんを面白いところに連れてってあげる」
「面白いところ……?」
「必ずよ……」
そう言った女の子の顔は、夕陽に染まって妖しく輝いていた。