狂人達の宴-3
「エッ？」
彼女は後を振り向いて春樹を見ると、驚いたように2〜3歩後に下がった。
春樹は慌てて、
「あ、逃げないで！」
そう言ったが、彼女は驚きの表情のまま春樹を見ていた。
ボサボサ頭にメガネを掛け、Tシャツに半ズボン、そのうえ小太りで珠のような汗をダラダラ流している。
これでは、どう弁解しても不審者に見える。
「この間、会ったよね。き、君がプール・サイドからボクを見て……」
春樹は真っ赤になりながら、彼女に伝える。すると、彼女も思い出したように手を叩くと、
「ああーっ！あの時のお兄ちゃん」
女の子はそこまで言うと、また怪訝な表情になり、春樹に訊いた。
「それで……何か用？」
そう言われた春樹は、どう答えようか考えた。しかし、うまい言い方が思い浮かばないのか、ストレートに思いを伝えた。
「あの時、君を見て……〈天使〉だと思ったんだ。…だから…君と友達に……」
異性から初めて聞いた告白に、女の子は顔を赤らめ、どう対応すべきか困った表情になりながら、
「でも……私、これから塾があって……」
女の子の表情と答え。
だが、春樹は諦め切れないと焦った顔で〈その翌日は？〉と訊いた。
そして、3日後まで断られた時、さすがの春樹も〈ていよく断られている〉と気づいたのか、
「そう……忙しんだね」
力無くそれだけ言うと、その場から立ち去ろうとした。
それを見た女の子は、あまりに可哀想と思ったのか、
「あの……」
優しい声に振り返る春樹。
「火曜日なら……」
その言葉に春樹の表情が、みるみる笑顔に変わり、
「じゃ、じゃあ…来週の火曜日の放課後に……」
「はい」
女の子は春樹の言葉に、はにかみながら答えた。
春樹も顔を真っ赤にしながら、〈じゃあ…約束したよ〉と言うと、何度も振り返り女の子を見ながら帰って行った。
その春樹を女の子はしばらく見つめていたが、見えなくなるとニヤリッと笑った。