飃の啼く…第14章-2
「では…虫を使って己たちを翻弄したのは…お前なのか。」
「そうだ。察しが早いな…さすがは飃よ。」
「蠱(こ)毒も…そうなのだな。」
「そのとおり。」
「君は自分が何をしているのか、わかっているのか?」
憤りと困惑がない交ぜになった飃の問いを、蚩が笑う。まるで昨日まで毎日顔を合わせていた友人同士のように、蚩は気さくに話しかける。
「解っているとも…わかっていないのは君のほうだ、飃。」
奴の指が私を指す。同時に、見えない糸が私を壁にたたきつけた。
「っぐ!」
「さくら!」
私を縛るのは…考えなくてもわかる。蜘蛛の糸だ。私は、壁に貼り付けられたまま、ものすごい粘着力に身動きが取れない。
「私は君を助けようとしているんだ。この娘を殺してやることで。」
「何ぃ…?」
そして、蚩は少しだけ、少しだけ悲しげに飃の目を見つめた。
「黷がその子に何をしようとしているか…もし成功した暁には、君だって思うはずだ。そんなにその子を想っているのだから。」
「どういう意味だ…どういう意味だ!巌!!」
「あの子は、私に殺されていたほうが幸せだったのだよ。」
飃がすばやく剣を抜く。
旧友に向ける剣の輝きは、少しも鈍ることなくわずかな光を集めていた。私に向けられた切っ先を、全て受け止めようとする飃の構えに、迷いは無かった。
「…これは我々の因縁だ。そうだな?君は…とにかく理由はわからんが、己と戦いたいんだろう。」
飃が言う。必死な飃を、切れ長の冷たい目が見据える。そして、私に移る。その表情には…隠しきれない、羨望の念が…
「やはり、判ってはもらえないようだ。友人の忠告に耳も貸せなくなってしまったのだな。」
飃の目がぎらりと光る。
「澱みに加担して、散々己達を弄んだ挙句、忠告だ?友だと?言えよ、巌。これは君自身の問題だ。違うか?」
蚩は、その射抜くような視線に少しも臆することなく、ふふっと笑った。