飃の啼く…第13章-9
がくがくと腹筋を痙攣させて、熱い波が彼を飲み込む。断続的な呼吸が、次第に落ち着いて、ゆっくりになってゆく。
そして、思考を再開するだけの落ち着きを取り戻した。
「一体何のつもりで…」
そう言って起き上がると、上気したさくらの顔と目が合う。はだけた寝巻きが、淫靡さに拍車をかけている。少し汗ばんだ身体の匂いが、眠りから覚めた飃の衝動を強く突き動かす。
「つむ…じ…どうしよ…。」
切なく、苦しい声に、欲望の響きを隠そうともしない。
「あついよ…あつくて…苦しいの……」
幽かに開いた口から、覗くのは赤い舌。まだ濡れた唇が、口付けをせがむように誘っていた。
「どうしたらいい…?」
我知らず、声がかすれる。
「わかんな…ううん。でも…」
さくらの顔が赤くなる。暗闇でもはっきりわかるほど。洗い立ての髪が頭の熱で暖められて、香料の香りを立ち上らせていた。
「言ってみろ。」
触れたとたんに我を失いそうで、飃は動かずに聞いた。
初めてだった…こんな彼女を見たのは。
「ゃ…あ…はずかしいの…。」
胸に飛び込んできた彼女は…震えていた。手を伸ばして、抱きしめる。触れたとたん、手のひらが背中をさ迷う。その些細な刺激に、腕の中のさくらが小さく喘ぐ。
「どうして欲しい…言うんだ。さくら。」
寝巻きの前を、ぎゅっとつかんで、小さな小さな声で…
「欲しいの…沢山欲しい…」
そして、さらに小さく縮こまった。
「お願い…。」
「ぁっ…」
横たえただけでこの声だ。恥ずかしそうに伏せられた目が、ちらりと飃を捕らえる。
「飃…。」
―理性だ。理性を失わないように、しっかりしろ。これは何かおかしい。
飃の全神経が「警戒しろ」と叫ぶ。だが…うまく働かない。震えた手でさくらの唇をなぞる。彼女は、その指を迎え入れて嘗めた。
怪しく。
…蛇のように。