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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室最終話」-3

俺は帰路についていた。
今日も商店街らしい雰囲気だ、なんてしみじみ思う。その辺りから聞こえてくる、この声。
「いらっしゃ〜い」
「安いよ、安いよ!」
「あらま奥様ったら!お上手なんですから!」
本当にいつも通りだな。なんにも変わってない。
俺は、果たして変わってないと言い切れるだろうか。言い切れはしまい。双葉先生の姿を明日から見れないと思うと、気も落ち込んでしまうというものだ。俺の日常は明日から崩れ去るんだ。本当に今更だけど、そう思う。
商店街を抜け、広い街道に出る。ここからなら我が家が見えるくらいだ。
「帰って……宿題して……寝て……起きて……学校に行って……」
毎日同じ事の繰り返し。なのに明日から違う。双葉先生に逢えなくなるんだ。
「……!」
ふと。
見えるものがあった。それは水滴、俺の涙。
「……なんだよ」
悲しい。
悔しい。
悲しい。
悔しい。
悲しい……。
「さっきまで溜め込んでた分、家が見えたら安心して溢れてきちまった……」
早く家に入ろう。 そして今夜は泣き明かすんだ。
明日からまた、頑張れるように。
明日からまた始まる新たな日常を、思いっきり享受出来るように。



「ただいま」
返事なんかない。分かっていた。ただ、いつも以上に寂しかった、それだけだ。
なのに、だ。
……お帰り、達也……。遅かったね……
と。
「!」
確かに聞こえた。
声なき声が。
「お前……」
聞き覚えのある声。それは俺の名を呼び、未だそこにいる。姿が見えてきた。うっすらと、しかし確実に。
「涼香(りょうか)……」
そいつの名を呼ぶ。涼香、と。
脚のない、そいつの。
「なにか用か?それよりまさかお前『総本山』からここまで来たのか?」
涼香はコクコクと頷き、
……頭領が帰ってこいって。次の土日にでもボクと一緒に……
やはり声なき声で俺に言う。
「帰れ……か」
……頭領は怒らせると怖いよ……
涼香が悍ましげな顔をした。
分かってる。そんなのは誰よりな。
「分かった。土日は……明後日だな」
……じゃ、駅で待ってるよ……
「明日、学校が終わったら行く。出来るだけ早めに行く。だから、誰かに憑いたりすんなよ」
そう。
涼香は、幽霊なのだ。
そして俺は幽霊の涼香が見える。常人には見えないんだがな。説明すると長くなるから、一言で締める事にする。
血筋だ。
「分かったのか?」
……ちっ、分かったよ……
ちってなんだよ。舌打ちするってどうなのよ。


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