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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室最終話」-4

朝。
目覚めると、涼香はもういなかった。駅に向かったのだろう。この町最大の駅、鷹須賀崎(たかすがさき)駅へ。新幹線から電車から、新快速やら快速やら……とにかく、いろいろものがある、でいいか。今日、学校が終わったらソッコーで家に向かい、準備をして駅にて涼香と合流。寝台列車で『総本山』に行く。これが俺の計画。
昨晩、俺の耳元でなにかぼそぼそ呟いていた誰かさんのせいですっかり寝不足になってしまった頭を振り回す。
(よし。今日は授業をサボって保健室で……)
そこまで考えて、気付いた。愚かにも、俺は忘れていたようだ。
(双葉先生、昨日でいなくなったんだっけ……)
それでは保健室でサボれない。双葉先生だからこそサボらせてくれたのだ。
今度の離任式でまた逢えるだろうが、それが終われば永遠にさよなら、なんて事もありえる。
「……行くか」
そんな心持ちは捨てる。決めたじゃないか、頑張るって。今日から真面目野郎に変貌だな。
玄関の戸を開ける。……そこには馴染みの顔があった。
「達也、おはよ……」
頬を朱に染め、手元は落ち着かずに動かしている優花がいやがったのだ。
「……いつからいた?」
単純に気になった。俺が出てくるまで律義に待つ必要があろうはずもない。チャイムでも鳴らせばいいのだ。だが、奴の足下を見れば、無数の足跡がある。しかもすべて同じもの。察するに、こいつは何度も往復していたのだ、我が家の玄関の前を。
「えと……1時間ぐらい前、かな」
「それ以前に、何故いる?」
「え?」
「何故俺の家をお前が知っている?」
「先生に言ったら、個人名簿とかいうの、見せてくれたから。それを見て……」
そうか、と適当に相槌を打ち、俺は戸を閉め、鍵を掛けた。そのまま登校しようとする。
「あ!」
が、優花が声をあげた為、俺の歩みは止まった。優花に振り返る。
「なんだよ」
「こ……これ、渡したくて……」
優花はすっと可愛らしい布で可愛らしく包まれた物を差し出してきた。
なんだろう、これ。そう思いつつも受け取る。
「あ、あああ、あの、あのね!昼休みに例の場所に集合だからね!絶対来てよ!お願いだからね!」
そこまで言うと、優花は走り去っていった。
さて、例の場所に集合、か。校舎裏、だよな。
「……はぁ」
ったく、人が傷心してるっつーのに……。
「ま、いいか。行こう」



内心、優花に感謝していた事は否めない。あいつのおかげでちょっとは気が紛れた。だから行ってやるのだ。
午前中のかったるい授業(永遠に続くかも……なんて思った)も終わった。さあ、昼休みだ。優花の……もとい、校舎裏に集合だ。
「ふぅ……相変わらず、風通しはいいな」
前に来た時も感じてはいたんだ。ここは風通しが良い上に涼しい。湿った空気が辺りに漂っている。加えて『裏』である、この時間帯は校舎が良い具合に日陰を作っているから最高だ。夏はここで過ごすに限る。にしても、夏休みも終わり、もうすぐ秋だというのに、この残暑はなんだろう。
そんな事を考えていた、その時だ。
「あ……」
不意に声がした。そちらを見やると、
「早いね……」
真っ赤な顔の優花がいた。手には俺と同じ包み、缶ジュース。……2本、持ってるな。
「こ、これ……達也の分……」
声と手を震わせながら、優花は手に持つ缶ジュースの片方を俺の前――テーブルの上に置く。
「悪いな。金は払ったほうがいいか?」
「い、いいよ!別に、そんな……」
優花が押し黙ってしまった。どうしよう、とても気まずい。遠くからは生徒の声。でも俺たちの周りには沈黙。


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