蝉の鳴くこの街で-5
「そういや、ここで立ちションしたのが懐かしいな。可南子がやりたがって大変だったんだよな。私もするー、って」
「んなこと言ってないわよっ!」
私達のやりとりを見て、あはは、とお腹を抱えて笑う亮介。
つられて笑う和也と、目が合った。
―――あぁ、あの時のままだ。私達はずっと、あの時のままでここにいる。
水面に反射した黄金色の光が眩しい。きらきらと、輝いている。
ずっと、今が続けばいいと思った。このまま何も変わらずに、日々が続いていけばいいと思った。
でも、夕陽に伸びる影が長くなっていくのはどうしようもなくて。
亮介は一歩前に出ると、そのままくるりと私達に背を向けた。一度風が強く吹いた後、亮介は喋り出した。
「…絶望的だってわかった時さ、病院の屋上から飛び降りようとしたんだ」
「………え?」
「辛くて苦しくて、なんで僕がこんな目にあわなきゃいけないんだろう、って思って。自分が世界一不幸なんじゃないか、って思って。こんな人生だったらもう終りにしたい、って思って」
何も、言えなかった。
かける言葉が、見つからなかった。
「―――でもさ」
風向きが、変わる。
「でも、僕、飛び降りなくてよかったよ」
振り返った亮介は笑っていた。
「本当に………よかった」
とても穏やかに、笑っていた。
そして視界の隅に、白い布が舞う。
「あーっ!」
「やべぇっ!」
急な突風に飛ばされ、川に流されていく布は私達が作った旗だった。
「あ!…ったく。しょうがないわねぇ」
私は慌てる二人の姿がおかしくて、今ここに三人でいられることが嬉しくて、笑いだしてしまった。
「いいじゃん別に。飛んでっちゃったけど、なくなったわけじゃないわ」
そう。今、私の目に映っているこの燦然とした世界が。きらきらと輝き、とても美しく。
「それに、大事なものはずっとここにあるじゃない?」
きっと私は、もうこれ以上ない、ってくらいの笑みを浮かべたと思う。
きょとん、とした顔で私を見る二人もやがて大きく笑いだした。
「ぷっ…あはは…。やっぱ、可南子には敵わないや」
「違いない」
三人で大声をあげて笑いあった。
都会と呼べるほど栄えてはいない。けれど、田舎と呼ぶほど廃れていない。特産品もないし観光地もない。
私が生まれた街は、そんな街だけど───
「大丈夫、きっと治る」
私は言った。
少しも弱々しさを見せないように、強く。
「大丈夫」
───私達が過ごした、大切な街。
◇
アスファルトから上がる熱気がむわっ、とする。
まだ夏休み中だっていうのに、うちの学校はご丁寧なことに補講までやってくれるらしい。
朝、通学路で和也と会った。
「おはよ」
「よっ」
横に並んで、それきり私達は無言だった。
そう、奇跡は起きた。
亮介は、もう持たないと言われた七月を乗り越え、八月を十日間も生きれたのだから。
静かな朝だった。車の通りもまったくなく、前後見渡しても私達以外に誰もいなかった。有るのは夏の匂いと、漂う熱気だけだった。