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蝉の鳴くこの街で
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蝉の鳴くこの街で-4

 坂道を下って大きな通りをまっすぐに進む。商店街の脇を通って細い路地を曲がれば、そこにあるのは私達の宝島だ。
 今さら誰も買わないような品物が入ったガチャポンも、賞味期限の怪しい飴玉も、そのままだった。毎日のように出入りしていた駄菓子屋は、当時の私達にとって夢のような場所だった。
「うわぁー懐かしいねぇ…何か全然変わってないや」
 目を輝かせながら店内を見渡す亮介を見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。
それは和也も一緒のようで、照れ隠しなのか頭をぼりぼりと掻いていた。
 冷蔵庫には相変わらず『ジュスー60円』と張り紙が付けてあった。
小さい頃に何度も「おばあちゃん、ジュースだよ。ジュスーじゃなくてジュース」と言ったが「そうだねぇ」と深く頷くだけだった。どうやらそれは今も変わってないらしい。
あの頃と同じように、おばあちゃんは穏やかな顔をして座っていた。
「ばあさん、死んでるんじゃないのか?」
「和也っ!」
「冗談でもそれはダメっ!」

 ビニール素材に包まれた合成着色料たっぷりの飲み物を片手に、私達は駄菓子屋を出た。
日は、傾き始めていた。
「いい時間帯だな」
呟く和也に、私はただ黙って頷いた。
―――私達のやろうとしていることは、あの日々の再生だ。

 私達はいつも三人だった。幼馴染とか親友とか、形容はなんだっていい。とにかく私達はずっと一緒だったのだ。
それはきっとこれからも変わらない。街も人も、すべて何もかもがこのままで。
そう、切に願っていた。

「到着」
「とうちゃーく」
「ここは…」
 ばしゃばしゃと水流の音。水面にキラキラと反射する陽の光。澄んだ風に運ばれる、茂る草の匂い。
変わらないその場所に、降り立つ私達。
「昔行った…河原?」
「そうだ」
 亮介はおぼつかない足取りで河原を進んだ。当時を思い出して歩いているのか、その足取りはひどくゆっくりだ。
 そして、亮介は『それ』を見上げた。
「これは…秘密基地?」
歪な形の木材と破れたビニールシートらで構成されたそれは、私達の作った思いの欠片。絆の結晶。
「一朝一夕にしてはよく出来たよな」
 和也は少し恥ずかしそうに笑った。たぶん私も、同じような顔をしていると思う。照れ隠しやらなんやらいろいろ混ざって、顔がほころんでしまう。
「すごい…あの頃のと一緒だ」
「ちょっと。まだ完成してないわよ」
え?と首を傾げる亮介に和也は言う。
「旗が足りてないだろ?だから亮介、お前が差せ」
「僕が?…いいの?」
「じゃないと、三人で作ったことにならないでしょ」
ほら、とボロボロの布がついた木材を突き出す。
亮介は一瞬戸惑った表情を浮かべた。けれど、すぐにそれは笑顔になり旗を受け取った。
 がちゃり、と石畳の間に突き刺された不格好な旗が、風になびいて踊った。
「今の方がよっぽど巧く作れるけど、なんか秘密基地っぽくないわね」
「たぶん、秘密基地は子供にしか作れないんだよ。そんな気がする」
 満足そうな笑みを浮かべながら、亮介は旗を見上げた。
今日の亮介は、ずるい。
私の心を、いちいち締め付ける。


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