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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第11章-1

その日、私たちの街には、珍しく雪が降った。窓を開けた瞬間、目の前に予想外の雪景色が広がっている、あの瞬間。全てが白に覆い隠されて、この日ばかりは、曇り空まで美しい。

「ねえ!飃、見て!」

「ん〜…」

私の旦那様は、ベッドの中で丸くなったままだ。長い黒髪が、ねぐせでぼわっと広がっている。私は笑って、カーテンを全開にしてからベッドにもぐりこんだ。

「あったかぁ〜ぃ…」

極楽だ。冬の朝の二度寝…これに勝る贅沢は無い。

飃がもぞもぞと動いて、私の体に腕を巻きつける。私はなすがまま、飃の温かい腕の中に納まった。寝ぼけているのか、飃が私の頭にキスを落とす。くすぐったくて、飃の腕の中でくねくねしてしまう。

「…起きた。」

飃が言った。体を起こして、窓のほうを見ると、耳がぴんと立った。

「ねえ。寝起きのあなたって、『天○にラブソングを…』のウーピー・ゴールド○ーグみたいだね。」

「さくらだって、寝起きは獅子だぞ。」

ベッドから起き上がって、台所へと向かっていく彼が、捨て台詞を残していった。そして、

「うーぴって誰なんだ?」

「女優よ。」教えてあげた。

「…今日は仕事?」

飃は、私の実家から出る生活費に依存するのが嫌で、最近は自分でお金を稼いでいる。私を一人にしておいても大丈夫だと判断してくれているのかもしれないけど、何をしているのかはどんなに問い詰めても話してくれない…でも、妙にこそこそしているし、かなりの大金を持ってくる。夜出かけるときもあれば、昼のときもあって、とにかく不規則だ。一度大きなな「仕事」が終われば、しばらくは一緒にいてくれるのだが。

「いや、今日は無しだ。」

それなら、一日中一緒にいられるんだね…声に出したか、出さなかったか…それすらも解らないほど、私は眠りの世界のあまりに近くにいた。飃がベッドに腰掛けて、かすかに揺れる。その振動にあやされるように、心地よい眠りに落ちていった。




幾つかの朧気な夢の世界を泳ぐ。夢と夢の境界線が曖昧だ。まるで万華鏡を覗くみたいに、くるくると……

――さくら…!

+++++++++++++



さくらの寝顔は本当に『平和』という言葉が相応しい。あたたかい布団に包まれて、口許には微笑が浮かんでいる。口づけしようと屈みこむと、彼女の馨りがした。香水も香料も必要ない。花のような、果実のような、この馨りは魔法だ。
若い女の一人暮らしにしては飾り気のない、白い寝室。窓の外の雪に、この部屋まで浸蝕されたようだ。
初めてこの部屋に訪れた時のことを想うと、笑みが洩れる。いかにも「さあ、さっさと片付けよう」と言うような、さくらの態度。だが、それすら自分の気を惹いた。その後の甘美な一時があったから。
正直、あの追い詰められた状況でこの町まで逃げて来て、実際にさくらと逢うまで、武器さえさっさと手に入ればそれでいいと思って居た(確かに、長い禁欲生活からの開放、というのも頭のどこかにはあったが)


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