飃の啼く…第11章-17
「ひさ―?!」
代わりに、その凛とした表情に、恐ろしいほどの冷気を湛えて。
そして…
「馬鹿奴(め)!」
「氷雨―っ!」
一気に伸びた触手が氷雨を捕らえる。助けに行こうと飛び出そうとする私を、飃が引き戻す。
「飃っ!なんでっ!?」
「見ろ。」
「ク…甘く、見んじゃないよ、泥水風情が!」
氷雨をつかんだ触手から、パキパキという音と共に、触手の身体が凍っていく。その氷さえ破って、氷雨の口を目指す体液…。
そんな足掻きをあざ笑うかのように、氷雨は言った。
「お前は、あたしたち冬の化身を怒らせた。お前の地獄にいる仲間に聞かせてやるんだ。雪女の怒りの、冷たく恐ろしいことを。」
飃の手が離れた。
私は飃の肩に駆け上がり、そこから一気に全体重を九重に宿して、澱みの核を貫いた。
氷に閉ざされて行き場をなくした体液が、私の作った裂け目からあふれ出す。
「もう少し…もぉすごじだっだのに…もうしわげありばぜ…御方様…お父様…」
じうじうと、未練がましく雪を溶かして…そいつは塵となった。
自慢の臍出しルックについた澱みの塵を払う氷雨に、私は駆け寄った。
「氷雨…。」
「…ふん。」
ちぇ、やっぱし可愛くな…
「ありがと…」
そういって、彼女は、照れくさそうに、笑った。良く考えたら、初めて目にした笑いだった。その笑みは、まるで雪女に似合わない。とても暖かい微笑。私が微笑み返すと…
「ふ…人間だね…。」
氷雨がいう。