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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第11章-18

「どういう意味よ?あ!それからね、私の名前はさくら!人間だけど、ちゃんと名前があるんだからね!」

私のふくれっつらに、氷雨が笑う。そして、

「怒ってない…か?」

私は首を振った。

「あなたは村を守ろうとした。そして、結果村は守られた。それで良いじゃない。ね?」

氷雨は一瞬あっけにとられた顔をして、また微笑んだ。

「時々、遊びに来いよ。」

そっぽを向いて、恥ずかしそうに言う。そんな氷雨に、私はマフラーを渡した。

「そんな格好じゃ、冷えるよ。」

よけーなおせわだよ!と彼女は言う。私たちは笑った。だけど、その真っ赤なマフラーは、彼女の心の中の炎を表しているみたいに、とても良く似合った。



その日、私たちが帰る予定の日の真夜中。戸口を叩く音がして、私は目を覚ました。飃の腕の中から抜け出して、出来る限りの厚着をして外へ出ると、底には…

「朔…!」

彼女は、“ついてこい”と手で合図して、私を家から連れ出した。こんな真夜中に、一体どこへ…と聞きかけて、彼女の、まっすぐ前を見据える真剣な眼差しに、口をつぐんだ。彼女はなにか、決断を胸にあの家の戸を叩いたんだ。彼女の決断を、私と共有するために。

…とはいえ、まっすぐな朔の瞳が探しているものが何であれ、これ以上山道を登るのならばそれ相応の覚悟が居る。かれこれ2時間、何も無い真っ白な山道を、あっちへすぼずぼ、こっちへもごもご…挙句の果てに後ろへずるずる…とうとう

「まだ?」

と聞きそうになったところで、やっと到着した。

朔は 何も言わずに眼下の光景を指し示した。
「わ…ぁ!」
それは、朝の淡い光に染め上げられた雪景色…薄いオレンジに輝く様は、それは見事で…まるで、この街に絶世の美しい反物が敷かれたようだった。木という木、家という家はなだらかな新雪に覆われ、朝の鋭い寒さを和らげる様に柔らかく、全ての屋根を包んでいた。
「落ち込んだ時は、ここに来るんだ…。」
朔にお礼が言いたくて、振り返ると、そこには、氷で出来た2匹の狸の彫刻があった。朔は、その像の真ん中に座ってこっちを見ていた。
「父さんと母さんだ。お嬢に頼んで作って貰った。」
内心の問いを見透かした様に、確信に満ちた声で彼女は答えた。
「貴方のお父さんとお母さんは…」
朔は、私の目を一瞬見て俯き、言った。手のひらに舞い降りた粉雪のように小さな、儚い声で。
「人間に撃たれた。一人で迷っていたところを、お嬢に助けられて、以来ここにいるんだ。」
私は…私は彼女の前に膝を付いて、彼女を胸に抱いていた。
「ごめん…ごめんなさい…。」
謝る相手を、抱き締めるなんておかしいと…言われればその通りだけど、その時はそれしかできることが無かった。彼女のためにしてあげられる事は、温もりを与えてあげる事だけ。
「あんたが謝る事じゃないよ…」
くぐもった声は、心なしか震えていた。
「僕こそ、辛くして悪かったよ…。」
そして、小さな腕が私の背中に回された。
「あぁ…暖かいなぁ。人間は…」
彼女は私の腕の中で身動ぎして抜け出した。そして、二つの像の前に立った。


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