ICHIZU…G-6
「もうっ!」
佳代は山下の冷たい言い方に、頬を膨らますと、憂鬱な顔で空を見上げる。空からは雨粒が降りそそいでいた。
それは第3試合の途中だった。夏特有の夕立が、突然降ってきた。
なんとか第3試合は終了出来たが、次の第4試合は天候の回復次第という事になった。
おかげで佳代達は1時間近くテント小屋で待ちぼうけを喰わされていた。
(中止なら中止でハッキリしてくれないかなぁ)
佳代はひとり、ブツブツと文句を言っていた。
すると、
「カヨーッ!」
自分を呼んだ声の方向を佳代は見た。尚美と有理が傘をさしてこちらに手を振っていた。
(ナオちゃん、何で?)
尚美は女子バスケ部に所属していて、彼女達も中体練大会の真最中のはずなのだ。
「ナオちゃん…まだ大会中じゃあ…」
佳代の言葉に尚美は笑って舌を出すと、
「負けちゃった!」
「あっ、ごめん…」
マズい事を聞いたと佳代が謝ると、尚美は気にした様子も無く、
「いいの、いいの。また来年頑張るからさ。
それでカヨ達の試合が3時ぐらいからって聞いたからさ。
途中からでも良いから見に行こうと思ってユリ誘って来たんだけど…」
「残念ながら、試合まだなんだ。この雨でさあ」
尚美はがっかりするかと思いきや、逆に嬉しそうに、
「だったら私、キャプテンに挨拶してくるわ!」
尚美はそう言うと、3年生が集まるテントへと歩いて行った。
佳代と有理は呆れた顔をして尚美を見送る。
「ユリちゃん。ありがとう、見に来てくれて」
「あと3試合勝てば優勝でしょ!頑張ってね」
「まあ、私は脇役みたいなモンだから…」
佳代が話しかけてる途中、山下が佳代の肩を軽く叩いた。
「何?」
「あそこ見てみろ」
そう言って山下は西の空を指差した。どんより曇っていた空が明るくなり、雲間から陽光が射していた。
「雨、あがるんじゃない!」
声を弾ませる佳代。
その通りに垂れこめた雲は徐々に去っていき、30分も経つと雨があがった。
「あがった!」
佳代は笑顔でテントから外に出て、降っていないか確かめる。
他のメンバー達も、わらわらと外に出て来た。
それからしばらくすると、球場から人影がこちらへ向かって来る。
榊と永井だ。
「1時間後に試合開始だ!準備しろ」
榊の指示で、佳代達がアップを開始したのは夕方の4時半を過ぎてからだった。