0センチ。-3
「‥‥‥優衣‥‥。」
俺はあの人がしてくれたように子供をあやす感じで背中をさすって、優衣が泣きやむのを待った。俺にはそれしかできなかった。
否定することも、言い訳することもできなかった。
たくさんの人が俺たちを見ていたけど、そんなことどうでもよかった。
少し落ち着いたのか優衣が口を開いた。
『あたし嬉しかったんだ。ちょっとの間だけでも奏人の隣にいらるたことが。でもあたしじゃないんだ。奏人の隣は‥山田さんじゃなきゃ。あたし見たんだ、奏人と山田さんが手を繋いでるところ。奏人すごい緊張してたけど、すごく幸せそうだった。その時、思ったの。あたしじゃないって。だから早く山田さんを追い掛けて?あたし奏人には一番幸せになってほしいの。できるのはあたしじゃないの。だから早く‥‥』
「‥‥優衣‥俺、優衣にひどいこと」
『ううん、早く行って!奏人は何もしてないから!謝ったりなんてことしないで早く‥‥行って‥。』
「優衣‥」
そう言って優衣は彼女がいた方へ俺を押した。
振り返って優衣にそんなことないって言うことくらい簡単だった。でも俺はもういないかもしれない彼女が気になって仕方なかった。もしかしたら人違いだったかもしれない。でも俺は走った。
背中で優衣に謝りながら‥。
――俺じゃだめなんだ‥。サッちゃんは‥‥好きなんだよ‥奏人が‥。
――あたし奏人には一番幸せになってほしいの。できるのはあたしじゃないの。
なぁ、圭佑‥。
お前が俺に言ったとき、お前も優衣と同じ気持ちだったのか?好きな人の幸せを願うなら自分は諦められるのか?
駅前から少し離れた細い路地に彼女はいた。
知らない男が彼女の綺麗な腕を掴んで、下品な笑みを浮かべている。
俺は走って彼女を抱き締めた。
「遅くなってごめん。コイツ誰?」
『えっ‥‥?あっ‥知らない人‥。』
「いつまで触ってんだよ!!汚れんだろ!!」
俺は自分でも驚くくらい迫力のある声でその男に言った。男はひぃと言って逃げていった。
「大丈夫?」
俺は彼女の肩に手を載せて顔をのぞいた。いつもは白い肌が紅く染まっていた。
『だっ‥だぃ‥大丈夫だから‥‥。』
いつも余裕な彼女が狼狽えている姿が可愛くて、もう一度抱き締めた。