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ヒメクリニッキ
【コメディ その他小説】

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ヒメクリニッキ-1

 夏休み。
 青春まっ盛りな奴らは部活なり恋愛なり、いろいろと頑張っているだろう。
 飛び散る汗、立ち込める入道雲。突然の雷雨に急いで雨宿りしてたら知り合いの女の子と偶然出会って久しぶりーみたいな空気になってなんだか二人きりだねーみたいな雰囲気になってもう雷雨は去っているのに二人の心には激しい10万ボルトがドーンって。
「なんで補習なんかあんだよバカバカバカ―――――!!!!!」
 蒸し暑い教室で俺は叫ぶ。魂を込めて。
「いいか? お前はやれば出来る子じゃない。やらねぇと出来ないんだよ」
「ぐふっ……」
 どうやら補習の先生、成宮先生には届かなかったらしい。いきなり現実を教え子に突き付けるなんて。こいつ本当に教師か?
「先生雨宿りしてきていいですか?」
「一生日の目が当たらないようにすることは出来ますが」
「悪魔」
「黙れ出来損ない」
「ぐふっ……」
 駄目だ……。勝てる気がしない。
 目の前に広がる答案用紙。いまだに問1は空欄のままである。なんだか陰が見えたので空を見ると、鳥が飛んでいた。
「先生、俺……鳥になれるかな」
「そんな飛びたいんならゴキブリで充分だろ。みんな道を空けてくれるぞ」
 まず先生にたたき落とされんだろ。
 改めて問1に目を通す。なんだかもう×マークみたいな英語と数字がずらぁっと並んでいる。なんだこれ日本語じゃなくね? あれでもここ日本じゃね? ってことは俺日本に住んでるけど外人ってことになる?
「先生解りません!!! まことに申し訳ございませんが解答の説明よろしくお願いできますか!!」
 頭がヒートする前に助けを求める。
「なんで3x+6y=3yが解らねぇんだよ……。いいか? ここは6yを移項してだな」
 あー、とめんどくさそうに先生が俺の隣に立つ。汗くさい教室でフローラルかつナイスな香りが俺の回りに漂ってくるわけだ。この性格じゃなきゃ先生モテそうなのに……。全く勿体ない。
「そしたらー3yでだな……おい、一生忘れられない思い出刻んでやろうか」
「あ、はい!! 3yが6yですね!!」
「……殺」
 そこで俺の意識は途絶えた。
 ただ覚えているのはなんだか手の平が俺の顔面にクリーンヒットしたような……先生の鼻歌が聞こえたかのような……。





「……ん? 涼しい」
 目を覚ますと、空気がひんやりとしていることに気付いた。白いカーテンが見えることから、ここは保険室のようだった。
「あ、起きた」
「あ?」
 誰かと振り向くと、そこには俺のクラスメイト、西田冴利が立っていた。
 お気づきだろうが、もちろんこいつもバカである。
「なんかねぇ、バチンって音がしたから隣の教室から覗いてみたら、悠が倒れててさぁ、先生がコイツ使えねぇから保険室連れてけって言うから連れて来てみました」
「……ほぉ、つまり冴利には俺を運ぶほど力があるわけだ」
 一応冗談で聞いてみた。一体そんな華奢な女の身体のどこにそんなパワーがあるというのか。
「思ったより悠は軽かったけど」
「おうマジデスカ……why……頭が痛いアル」
 ねぇよ。予想外だよ。俺の回りは超人ばかりかよ。
「えー、それと、悠があまりにもバカすぎるので今日は悟ん家に合宿することにしました」
 お前だけにはバカって言われたくなかった。
「夏休みなんだしねー。あ、拒否権はないらしいです」
「はぁ解りましたよ……。でも俺補習が」
 教室で一人ニヤついている成宮先生を想像すると……いかん、涙がでてきた。
「今日はもういいって。でもあさっての補習でまた解らなかったら永遠に涼しくしてやるって」
「よし今すぐ行こう勉強しようほら早く早く」
 本気で身の危険を感じた俺は、冴利の手を取って全速力で悟の家を目指して走った。
 途中で冴利が俺を抜かして、着いていけなくなった俺が地面に引きずられて心身ともにボロボロになったのは内緒である。
 幸い、悟は頭が良い。大丈夫だ。こいつがいればなんとか命を奪われるのだけは免れる。


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