甘辛ゾーン-9
「あっ、はい!もしもし、秀麻です!」
応答が速いな。しかもなんか興奮してるっぽいのは何故だろう。
「…佐々見ですけ」
「ショウちゃんですか。いやー奇遇ですね!たった今ショウちゃんに電話しようと受話器に手を伸ばしていた最中だったんですよ」
「ああそうか。ところでさっきの話」
「で!ちょいと聞きたいことがありましてですね…猫って、体のどこを洗えば気持ちよくなってくれるんでしょうかね?」
「……はあ?」
「…あの…あ!ち、違います!性的な意味じゃなくって。今までシャムちゃ…えっと
猫ちゃんと一緒にお風呂場で体を洗ってて………あー、今ショウちゃんはこう思いましたね?
『電話先には、雨に打たれ濡れ鼠の様な裸体を曝す凪が体を暖める為に刺激と快感を求めて…ハァハァ』と!
残念ながら私は汚れ無きこの体に誉れなタオルを身に付けってああああ!シャムちゃん!
こ、こっちに来ちゃだめです!ちょっと切りますね!そんじゃ!」
虚無感と疲労感だけが残った。
「明日にしよう…」
深呼吸をしてみる。
空気が不味い。
いつも思う。
前世では一体どんな人だったのだろう。
自分を含めて、凪も透も雪さんも。
僕という奴は何を成し遂げて終演を迎えたのだろう。
きっと、僕は……
その時目の前にある電話がけたたましく鳴り響いた。
…どうせあいつに決まってる。
「はい。佐々」
「ようしょうたん。オレだよーオレオレ」
相手は『あいつ』じゃなかったけど『あいつ』みたいな『あいつ』だった。
「オレオレ詐欺なら切りますが」
「ちょ、待てって。ちゃんと用があって電話したんだからさー」
「……」
「…じゃあマジメに話すわ。自称『平成のクレオパトラ』さんのことだけど」
「あいつが出てくる時点でマジメじゃないね」
「わーったよ。ほら、あの猫の───」