甘辛ゾーン-13
「……それは」
「見ての通り、オムライス。今日は何も食べてないみたいだから…まだパジャマ姿だし」
ショウちゃんが初めて来た時間は、昨日電話で約束した時間。つまり昼。
ということは、昼に起きてまた意識が落ちて今に至る。
そして気づいた、が
「いいよ、髪がボサボサでも気にしないから。それよりお腹空いてるんだろ?食べなよ」
察してくれた。
「無理強いはしないけどさ」
オムライスの欠片をスプーンで掬い口に入れる。
ゆっくりと何度か咀嚼して飲み込んだ後に、スプーンが手から離れた。
床に落ち、高い金属音が部屋に響き
やがて静寂に切り替わる。
「…シャムちゃんは…」
「………うん」
順を追って話してくれた。
私が倒れた後、すぐにシャムちゃんを動物病院に連れてってくれたこと。
他のお客さんでいっぱいだったけれども、院長さんに幾度も頼んでシャムちゃんの
状態を検査してくれたこと。
そして院長さんが戻ってきて俯き気味にこう話してくれたこと。
シャムちゃんは子猫であったが故に特別な虚弱体質で、前からほぼ瀕死直前の状態だった。
所々に凄く小さな傷跡があり、中には寄生虫が混じっている酷い傷もあった。
本当だったらその傷ができた時に一時間弱で死んでいた。
愛情をくれた人のために、がんばって生き続けていた。
だけど、残念ながら───
「…そうですか」
馬鹿だ。
「…ごめん」
何をやっていたんだろう。
「いえ…ありがとうございます。ショウちゃんがいなかったら…私は……」
独り善がりは嫌いなのに。
「……ごめん」
「このキャットフード、どうしましょうか…」
「………」
「結構、高かったんですよ?」
「…そう、か…」
「私…猫じゃないし…こんなに、食べれませんって」
「好き嫌いは無いんじゃなかったっけ…」
「……それとこれは別です……」
声を押し殺して笑いながら、精一杯に体の内側で泣き叫んだ。
「シャムちゃん、ごめんなさい」この言葉だけが胸の奥で反射し続けた。