甘辛ゾーン-11
◇
選択は間違ってない。
呼び鈴を鳴らしても凪が出てこないから試しにドアノブを回してみたら開いてて
仕方なく入っただけ。黒い竜巻、もとい黒い概念なんて渦巻いてない。
ゆっくりとした動作でドアを閉めた。
…なんで泥棒気分なんだ。
「凪ー?」
そう言った時
奥から得体の知れない……ああ、あれは。
「なう…」
黒猫がトテトテと近づいてきた。
◇
冷たい何かが額に触れ、反射的に目が覚めました。
正面には、ちょうどショウちゃんくらいの…というかショウちゃんそっくりの男の子がいました。
男の子は口を開きました。
「ナギさん」
私は戸惑いながらも返事をしました。
「……はい」
すると男の子は姿を変え『私』になりました。
私の目の前にいるのは秀麻 凪。
凪は自分の四肢をまじまじと見て、両腕で自分の体を抱きながら言いました。
「不思議です」
「何が、ですか」
敢えて疑問符は付けませんでした。
「抱かれた方が気持ちいいし温かいんですね」
「抱く方も同じだと思いますよ」
凪は苦笑して言いました。
「ぼくはぼくなりに生きて、生涯誰かを愛し、生涯誰かに愛されたかった」
「……」
「だけど『生涯』は叶うはずがない。それは一応、心のどこかでわかってはいました」
「…………」
「でも満足しました」
「どうして、ですか?」
敢えて疑問符を付けました。
「一瞬でも愛することができて、一瞬でも愛されることができたから」
最後に「ぼくは欲が深すぎたんですね」と付け足し、凪は男の子の姿に戻りました。
「…あれ…マズかったけど、おいしかったです」
「えっ?」
「…最後に」
「ありがとう、ごめんなさい、さようなら」
もしかして…。
「う……くぅっ!!」
「わっ!」
声の発祥地を見てみると、そこには、
「…ショウちゃん!?」
「あ、ああ。鍵開いてて…」
いえ、そんなことよりも早く。
「シャム…シャムちゃんはどこですか!?」
「…今さっき、牛乳とそこにあったキャットフードを台所で与えたけど…まだ食べ」
それ以降は完全に無視して、急いで台所に向かいました。