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僕とお姉様
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僕とお姉様〜僕の失敗とお姉様の決心〜-4

免許試験当日。
普段通っている自動車学校は自転車で通えるくらいの距離だけど、本試験場は遠い。まず電車に揺られて一時間半、それから地下鉄に乗り換えて最後はバス。普段公共交通機関を利用しないせいか、この移動時間にはうんざりする。
会場は当たり前だけど知らない人間だらけで、妙な違和感を感じてポケットに手を突っ込んで中身を握った。
それは銀色の巾着型の御守り。今朝出発直前にお姉様がくれた物だ。でも――

『交通安全の御守り?』
『そうだよ、自動車学校だもん』
『試験の時って合格祈願じゃないの?』
『どうせ受かるでしょ』
『分からんけど』
『受かるよ、山田なら』

根拠のない事を言い切って僕に右手を差し出した。

『何?』
『手、出して』
『?』

言われた通りにすると、お姉様も右手を出して僕の手をギュッと握る。
不意打ちの温もりに心臓が大きく音を立てるもそれがバレたくなくて、

『…何?』

何でもないように振る舞った。

『激励してるの』
『何だそれ』
『いいからいいから』

端から見ればただの握手だけど、この人を好きになってからこんな風にじっくり手と手を合わせるのは初めてで、すごくドキドキしていた。
でも同じくらい苦しかった。
切なかった。
だから僕も握り返した。
本気を出したら潰れてしまいそうなくらい薄い手の感触を確かめるように、何より離したくなくて。
どれくらいそうしたか、ゆっくり僕らの手のひらに隙間が生まれて、

『頑張ってね』

僕に向かって笑ってくれた。

『うん、行ってきます』

僕もそう答えて笑った。
つい数時間前の話。まだ手のひらの感触も残っている。貰った御守りよりもその感触こそが僕にとっては御守りだった。

勉強の成果もあってひねくれた問題ばかりの学科試験も難なくこなし、お姉様の言う通りあっさり合格。正直こんなものかと拍子抜けしたが、もう自動車学校に通わなくてもいい開放感と少し大人になれたような嬉しさで顔がほころんだ。


とにかく早くお姉様に知らせたくて合格番号の表示された電光掲示板のすぐ下で携帯の短縮ボタンを押した。
これで僕らの間にある色々な差を埋められるわけではない。それでも距離を縮める材料にはなるはずだ。
電話口から聞こえる味気ないコール音はすぐに明るい声に変わった。

『もしもし、どうだった?』
「無事合格です」
『おめでとう!あたしの激励のおかげよ?感謝してよ』
「うん、ありがとう」
『どういたしまして』

自分の顔が緩んでいくのが分かった。
やっぱり僕はこの人が好きなんだ。
そんな事を改めて実感できる。

「それじゃ、終わったら帰るから」

とりあえず報告はしたし、一旦電話を切ろうとしたその時、

『山田』

突然名前を呼ばれた。

「何?」
『あ…、山田。あたし山田に』
「あ」
『え?』
「ごめん、集合かかってるから切る」
『…』

合格者を集める放送が入った。


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