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僕とお姉様
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僕とお姉様〜僕の失敗とお姉様の決心〜-3

「どうしたの?」
「…んでもなぃ」
「何でもないわけないだろ」
「何でもないよっ」

また。
口を開く度にひとつふたつと涙頬を伝っていく。

「何かあった?」
「…」

無言で首が振られる。

「じゃあ何で泣くの?」

その質問の答えも無言。時折苦しそうに嗚咽を漏らし、細い肩が上下に揺れた。
こんな時、どうしたらいいんだろうか。
どうしてほしいんだろう。
椅子から下りてお姉様の前に立ったものの、どう行動したら正解なのか僕みたいな恋愛経験ゼロの人間に分かるわけない。
この人の身に何かあったんだ。でもそれは僕には言いたくない事。だとしたら、これ以上詮索したらいけない。そして僕とお姉様の今のこの関係下でしてあげられる慰め方は…

「…よしよし」
「違うだろ!」

頭を撫でたらスネを思いっきり蹴り上げられた。
当然うずくまると、頭上からは文句が降ってくる。

「目の前で女が泣いてんだから抱き締めろ!!」

…そうしたいのは山々だけど、

「彼氏でもない男にそんな事されたら嫌だと思ったんだよ」

本当は抱き締めたいよ。でも拒否されるのが怖かったから…。

「状況と雰囲気を考えろ!今はその時でしょ!」

それならば、と両手を伸ばすと

「遅い!」

振り払われた。

「あーあ。バカだなぁ、山田!こんないい女を抱き締めるチャンスを逃すなんてさ!」

ああ、確かにそうかも。僕らがこのままただのルームメートでいる限り、こんなチャンスはもう二度と訪れない。
お姉様は腕で目を豪快にこすって、僕を見てこれまた豪快なため息をついた。

「…なんだよ」
「山田がバカすぎて涙がどっか行っちゃった」
「バカバカ言うな」
「バーカ」
「おいっ」
「はー、シャワーでも浴びてくるか。勉強もほどほどにね」
「はいはい」
「試験いつ?」
「来週」
「ふぅん」
「…」
「…」
「乗る?」
「へ!?」
「免許取れたら、助手席に…」
「…考えとく」
「そっすか」
「まだ死にたくないし」
「おい」

お約束のセリフを吐いて部屋から出て行く背中を、ドアが閉まりきるまで見ていた。
僕にとっては精一杯のデートの誘いだったのに。上手くかわされたのかな。
まぁとにかく泣き止んで良かった。
涙の理由もため息の理由も考えないで一人で安心していた僕はお姉様の言う通り本当にバカで。バカすぎて、会話ができた事に満足してそのまま寝てしまった。

お姉様の中にあった決心の存在に、まるで気づかなかった。


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