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Larme
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Larme〜lonely liar〜-1

「…んっ」
…いやだ
「うーん」
誰か、
「うーっ」
助けて…
誰かっ!!
「っはぁ、はぁ、…はぁ、」
…夢?
白い部屋、カーテンの間から射し込む光、…隣で静かに寝息をたてる哲明。
何一つ変わらない。
…昨日迄と、変わらない。
「…はぁ」
大きなため息をひとつついて、私は朝食を作る為にベッドを降りた。
朝は、ご飯、味噌汁、焼き魚。
5年間、一度も変わっていない。
鍋を火にかけ、私は、今朝の夢を思う。
忘れたはずの過去。
…でも、簡単に忘れる事の出来ない過去。
「おはよう」
「…おはよう」
突然、私を後ろから抱きしめた哲明にかまわず、味噌汁に入れる大根を切り始める。
が、いつまでたっても哲明は私から離れない。
ため息混じりに私は言う。
「もう、ご飯つくれないじゃ…あっ」
いきなり、哲明の舌が首筋を這う。
「ち、ちょっと、哲明?」
私が逃げようとしても、哲明は私を逃がさない。
「ねえ、哲明、てつあ…」
「今朝」
ビクッ
「…今朝?」
「…うなされてたでしょ」
私の体は、その言葉に過剰に反応した。
「…起きてたの?」
「寝た振り」
背筋が凍りつく。
「…何かあった?恵」
「う、ううんただ、ちょっと怖い夢を見ただけ…」
「…そうならいいんだ」
哲明は私の髪を撫で、リビングに行った。
「…はぁ」
…バレるかと思った。
去り際に哲明が見せた切ない顔が、私の胸を締めつける。
「…ごめんなさい」
ソファーに腰掛けテレビを見る哲明に、聞こえないように呟た。

私がこの家に来て、もうすぐ5年になる。
哲明は三十路になり、私はもうすぐ中学を卒業する。
年の差は16歳。
端から見たら、絶対おかしい。
私だってそう思う。
…でも、私たちの場合はそうでもない。
それは、私が歳より大人っぽく見える事、哲明が仕事柄か、歳より若く見える事、そして“私たちが一緒にいておかしくない理由”を“私が作った”事。
…私が、、
「今日は遅くなるの?」
焼き魚をつつきながら私は尋ねた。
「うん今日はラジオ生だから、12時過ぎるかも」
「じゃあ、家で聴いてるね」
私が言うと、哲明は本当に嬉しそうに微笑んだ。
“ドキッ”と“ズキッ”が同時に押し寄せる。
この笑顔は、本当は私に向けられたモノではない。
朝食の片付けをしていると、チャイムが鳴った。
「ヤベ…宏暁だ」
鞄を掴み、玄関に向かう哲明。
「いってらっしゃい」
哲明を見送り、蛇口をひねって、食器を洗おうとした時、
「恵!」
呼ばれて振り返った私の目の前には、哲明の顔があった。
「……」
「…いってきます」
ゆっくり閉まるドアが閉じきった時、私はその場に泣き崩れた。
哲明の感覚が口唇に残る。
…あなたの大切な人は、私じゃない。
あなたの好きな人なんて、もうどこにもいないのに。

…私は、メグミなんかじゃない。

私がここに来たのは、恵になったのは、哲明を利用するためだった。
幸せは、持て余してる奴から貰えばいい。
神様なんて不公平なんだから、あてにならない。
自分から幸せを掴みに行かなきゃ。

哲明は獲物。
愛なんて欠片もない。
だって、私はメグミじゃないんだから。

…でも、裏を返せば、私には哲明の無償の愛を受ける資格がない。
バレたら追い出される。
何の不自由もない、この生活がなくなる。
私の、幸せが…

5年前、全てを失くした私は、あの街を飛び出した。
小さい手に握りしめた東京行きの切符に、全てをかけていた。


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