飃の啼く…第10章-5
「澱み!」
「なんだとォ…?」
夕雷も鎌を解き放つ。真っ黒な刀身が、澱みの肉を削ろうと、輝く。
ちりちりといういやな感覚が、全身を包み込んだ。
この家には結界が這ってある。しかし、本気で破ろうとすれば造作ない。ほんの時間稼ぎにしかならないのだ。
「己がまず先に出て、奴らをここから引き離す。」
誰もがその場に立ち尽くして動かない中、飃が言った。
「でも…!」
反論しかける私に、久しく見せたことの無かったあの微笑を向けた。楽しくてたまらないという、残忍な微笑。私は言葉をつぐんだ。邪魔は…出来ない。
「早く追いつけ。」
ベランダから民家の屋根に飛び移って、飃は振り向いた。自分はここだと、澱みたちに思い知らせるために。そして私にも解るくらい、殺気と妖気をみなぎらせて。
その後を、潜んでいた澱みが追ってゆく。
私は、そんな飃の姿を目で追うので精一杯だったから、夕雷が私の手を引いてくれた。
飃が戦場に選んだのは、近々大きなマンションが建つので、更地になった古い図書館の跡地だ。私たちが追いついた頃には、飃が最後の一体に止めをさしているところだった。飃はそこに結界を張った。人間がここに立ち入れないようにする結界だ。だが、澱みは別だ。
確実にしとめる。
こいつらを束ねている奴は?
現れない。
…いや。
―ゾク…と、再び悪寒が来る。近くにいる。大きさは?形状は?特徴は?全てに対応できるように、あらゆる状況を想定する。
どこからどう襲ってきてもおかしく無い。空か?地面か?それとも…